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茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術 [EXHIBITION]

久しぶりの東京国立近代美術館。

(昨日行ってきた展覧会の話)

今ここで開催されているのが
『茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術』という展覧会。
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16世紀後半、樂長次郎によって始められた【樂焼】。
樂家で、一子相伝により継承されてきた樂焼の歴代作品が
ずらりと並ぶ展覧会だ。

1月の半ば頃だったか、NHK Eテレの『日曜美術館』で
樂茶碗の特集をしたことがあり、それを観てから
「この展覧会、行かねば」と思い、
前売りを買って東京展が始まるのを待っていた。

来場者を最初に迎えるのは初代・長次郎が作った「二彩獅子」という作品。
あの千利休が愛でたという静かな佇まいの黒樂茶碗を作ったのと
同じ人が作ったとはにわかに信じがたいでしょ?と思わせる趣向。

更に奥に入って行くと、重要文化財を含む長次郎の黒樂・赤樂が並ぶ。

解説を読んだり音声ガイドを聴いていて驚いたのが
長次郎の父は日本人ではなく、渡来人であったということ。
阿米夜(あめや)という名の中国(あるいは朝鮮)人だったらしい。

正直なところ、今までこういった一見地味なお茶碗を単体で観ても
それぞれの違いが分からなくて、どれも同じに見えていたけれど
こうして一堂に集まった状態で観ると、色合いや風合いの違いが見えてくる。

そして「大黒」「無一物」「白鷺」「万代屋黒」「禿」など
付けられた銘がまたいちいち粋でカッコイイ。

初代・長次郎の後は、長次郎亡き後に窯を取り仕切った田中宗慶、
二代・定慶、三代・道入へと続いて行く。
三代・道入は琳派の祖と言われる本阿弥光悦とも親交があり
その影響もあって、樂茶碗も徐々に装飾性を帯びたものになっていく。

琳派好きな自分が、そう思いながら観るからかも知れないけれど
「升」「荒磯」「鵺」「僧正」など、「あ、これ好きだな〜」と
思うものが道入の作品には多かった。

ここでは樂家だけでなく、本阿弥光悦が作った茶碗も展示されている。
これもまたそう思って観るからかも知れないけれど
「雨雲」「紙屋」「冠雪」など、
やっぱり光悦=琳派はいいなぁ〜(*^^*)なんて惚れ惚れしてしまうのだった。

「一子相伝」というのは学問や技芸などの奥義や秘伝を
自分の子の中の一人だけに伝えて、他には漏らさないことを言うのだけど
(樂家の場合は実子でなく養子である場合もある)
本阿弥光悦の黒樂茶碗は定慶や道入の手を借りて
その殆どが樂家の窯で焼かれているとのこと。
一子相伝とはいえ、さすがに本阿弥光悦大先生の場合は例外なのね、
などと思ったりなんかして(^^;ゞ。
ここでも光悦はプロデューサー的な役割も果たしていたのかな
なんてことも想像した。


その後も、

四代 一入(「つるし柿」)
五代 宗入(「梅衣」「亀毛」)
六代 左入(「毘沙門」)
七代 長入
八代 得入
九代 了入(「巌」)
十代 旦入(「不二之絵黒樂茶碗」)
十一代 慶入(「潮干」)
十二代 弘入
十三代 惺入
十四代 覚入(「杉木立」「真砂釉薬栄螺水指」)

…と続いて行く。
(カッコ内はアタシのお気に入りを覚え書き的に書いただけ)。

十四代・覚入の言葉に
「伝統とは踏襲ではない。己の時代に生き、己の世界を築き上げねばならない」
というのがあるのだけど、その言葉をまさに体現しているのが
当代(十五代)・吉左衛門である。

展示の後半は、その当代・樂吉左衛門の作品を集めた展示になっている。
東京藝術大学彫刻科卒業後イタリアへ留学した当代の作品は
一言で言うと「攻めている」。物凄く「攻めている」。

伝統を受け継ぎつつも、大胆な篦(へら)削りや、歪んだ形状、
抽象絵画のような色彩、自作の詩を銘にする…など実にアバンギャルド!。

飲み口も大きき歪んでいて「これ、どっからお茶飲むの?(^^;」という感じ。
もやは茶碗とは名ばかりで、純粋なアート作品として作っているのでは?
と思いながら観ていたのだけど、音声ガイドを聴いていたら

 「これ、どこから飲んだらいいのかしら?」
 「ここから飲んだら飲みやすかった」とか
 そんなことを感じながらお茶を飲んでもらうことが
 《物とのコミュニケーション》になる。
 そんな風に楽しんでもらいたい。
 飲んでもらうことで、自分とその人が繋がっていく。

…とのことで、
当代ご本人は「この茶碗でお茶を飲んで欲しい」と思っておられるそうだ。
ん〜っ…これらのお茶碗でお茶をいただくのは
かなり難しそうだけど、確かにちょっと楽しそうではある(笑)。
どこから飲むかで、なんだかお茶の味も変わってきそう(^^;。

そんな十五代・吉左衛門の作品の中で
アタシが「これ好き」と思ったものを覚え書き的に挙げておくと…
●焼貫黒樂茶碗 銘 白駱
●焼貫黒樂茶碗 銘 吹馬
●焼貫黒樂茶碗 銘 峨々幽晦 黒きこと他になく 山の如く孤生して固の雄たらん
●巌上に濡洸あり I
  焼貫黒樂茶碗 銘 白雲の中を登れば 巌急に迫り出して万仞
  洸りのやや明かりをもって頂き近きを知る
●焼貫黒樂茶碗(2012年作のもの)
●焼貫水指 銘 鞄
●フランス焼締象脚花入 銘 南無
●フランス RAKU 茶碗
…と、こんなところ。

展示の最後には2014年と2015年に作られた
焼貫黒樂茶碗がそれぞれ1点ずつ展示されているのだけど
これらは、これまで観てきた前衛的な作品から一転して
ザ・黒樂!という茶碗になっている。
当代は自らを「ジグザクに進む振子」と言っていたけど
振子の振り幅の反対側にあるのがこういうものなのだろう。


こうして時系列に観ていくと
その時代時代の樂家の当主が、どんな作品を残してきたかというのは
もちろんその人の才能や技量もあるのだろうけど
どんな時代に生まれ育ったのか、ということも大きく影響していると感じる。
初代・長次郎しかり、三代・道入しかり、
幕末から明治にかけての転換期で苦心した十一代・慶入しかり、
そして自由な時代に生まれた十五代・吉左衛門しかり。

それにしても…、お父ちゃん=当代・吉左衛門がこれだけスゴイと
次期十六代・篤人(あつんど)のプレッシャーは
並々ならぬものであることは想像に難くない。
展示されていた次期十六代の2つの作品に向かって、
思わず心の中で「頑張れ〜(*^^*)」と呟いてしまった。


最後はショップでちょこっとお買い物。

展示室の出口付近には、こんな撮影コーナーが。
rakutyawan_2.jpg
置いてある器は、長次郎の黒樂茶碗(万代屋黒)の3Dコピー。
アルミで出来ているので結構ずっしりと重い。



『茶碗の中の宇宙』を観た後は、
同時開催の『マルセル・ブロイヤーの家具』という展示も
ついでにざっくりと鑑賞。
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帰りは竹橋からではなく、北の丸公園を散歩しながら九段下へ。

『シン・ゴジラ』に出てきたあの建物の前を通り…
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千鳥ヶ淵の桜はどんなかいな?と観てみたが、3月29日現在は「まだまだ全然」。
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12月にまた来るぜ!。
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最後は『茶碗の中の宇宙』のショップで買ってきたもの。
ポストカード4枚と…
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「樂家でも使用しています」という謳い文句に釣られて買ってしまった
京都の《かぎや政秋》の『ときわ木』というお菓子。

包み紙を開けたら…わっ、熨斗紙が付いてる!(◎_◎)。
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更に中を開くと…わっっ!松葉が添えられてる!。なんだか雅び〜。
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実は、店頭で見たときにはどんなお菓子なのかよくわからなかったのだけど、
粒餡を薄くのばして丁寧に焼き上げたものだそうだ。
原材料は、砂糖、小豆、水飴、寒天、小麦粉、卵といたってシンプル。
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1枚手に取って口の中に入れてみると、なんとまぁ上品な甘さ( ̄▽ ̄)。
これは美味しいや。


今年は《茶の湯》イヤーのようで、
これからも様々な美術館で《茶の湯》関連の展覧会が開催される。
アタシがチェック出来ているだけでも
・『特別展 茶の湯』@東京国立博物館(4/11〜6/4)
・『茶の湯の名品 -破格の美・即翁の眼』@畠山記念館(4/8〜6/18)
・『茶の湯のうつわ -和漢の世界』@出光美術館(4/15〜6/4)
ちょっと間が空いて
・『茶道具取り合わせ展』@五島美術館(12/9〜’18/2/18)
これだけある。

この際全部網羅して、今まで殆ど知らなかった茶の湯の世界を
かじってみるのも悪くないかも知れない。
(別に茶道を始めようとかそんなのではなく、
 茶道具の展覧会を観まくろうってだけなのだけど^^;ゞ)。





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《オマケ》
他のものを買うついでに、こんなものを買ってしまった…(^o^;。
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逆転優勝、感動したなぁ〜。
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ナッキー

おまけに反応(^-^;
横綱の涙にもらい泣き( ;∀;)
鬼の形相の貴乃花の取り組みを思い出しました。
無理せずケガをしっかり治してから出てきてほしいです。
by ナッキー (2017-03-30 22:29) 

梅屋千年堂

>ナッキーさん
日曜日は仕事だったので、リアルタイムでは観られなかったのですが
帰宅してから親の話やニュースなどで結果を知り、驚きました。
絶対に優勝は無理だと思っていたので。
諦めないで頑張った人の涙は美しいですね。
自身も膝を痛めていた照ノ富士も、あの物凄い「アウェー感」の中で
よく頑張ったと思います。
二人ともちゃんと怪我を治して、また来場所に繋げて欲しいですね。

by 梅屋千年堂 (2017-03-31 01:08) 

北国のまき

こんにちは。

梅の花びらが散り始めクロッカスが咲いてる 北国の春。

時を経て、伝統、技そして美が伝わる文章にうっとり。
行けないから今夜日曜美術館で(^^)

宇都宮…と探してたら見つかりました、3階の後ろですがうれしい~
by 北国のまき (2017-04-02 10:18) 

北国のまき

途中できれてる…

偶然にもNHk二日目もあるとのことでお願いしました。
こんなことがあるんですね。


梅屋千年堂さんの広島選択を知り、私の夢が広がりました。
本当にありがとうございました。

翌日は相反する世界、草間彌生展と雪村を楽しむ予定、今からわくわく。

アルフィーに感謝しながら、春ツァー感動の時を過ごしましょうか
by 北国のまき (2017-04-02 10:28) 

さかとこ。

オマケのジャポニカ学習帳、TVで稀勢の里のが売り切れで
残念がってる人を見ました。レアものゲットですね♪

今週からいよいよ春ツアー!初日は外れてしまったので
相模大野がマイ初日です。大宮も当たったのですがNHKが
取れず(泣)1か月以上空いてしまうので急きょ大阪2日目を
取り遠征決定!たこ焼き食べまくります♪
春ツアー楽しみましょー♪(^-^)/

by さかとこ。 (2017-04-02 17:32) 

梅屋千年堂

>北国のまきさん
宇都宮、そしてNHKのチケットも見つかって良かったですね。
「日曜美術館」ご覧になりましたか?。
アタシは本放送を観たにもかかわらず、今回も録画してしまいました。
(『おんな城主 直虎』を観ていたので、のちほどゆっくり観たいと思います)。

やよいちゃんと雪村、おもしろい取り合わせですね。
4月から5月にかけて、行きたい展覧会がありすぎて
雪村は観に行かれそうにないのですが、2色ボールペンや
出世飴、「SESSON」と書かれたトートバッグなど
グッズも面白そうです。楽しんできてくださいね〜。




>さかとこ。さん
実は他の文房具を買うために、ネット上の文具屋さんをうろうろしていたところ
このノートが目に入って「残りあと1冊です」と…。
これはアタシに「買え」と言ってるな…と思い、思わずポチりました。
一時どのお店も完売になりましたが、
増刷されたのか、今またいくつかの店舗で絶賛発売中のようです。
(というわけで、A6サイズのも欲しくなってるアタシです^^;ゞ)。

>>1か月以上空いてしまうので
そうなんですよ〜アタシもNHKには行かないことにしたので
静岡からヨコケンまで1ヶ月以上空いてしまうことになります。
果たして耐えられるのか?!アタシ!。

>>たこ焼き食べまくります♪
いいですね〜。たこ焼き、アタシもこれでもかというほど
食べまくってみたいです(笑)。

by 梅屋千年堂 (2017-04-02 21:50) 

北国のまき

おはようございます。

そうですか、グッズまでチェックしてなくて益々楽しみです[わーい(嬉しい顔)]

はい、昨夜「そうなんだ…へぇ…」観てみたいな、ですが時間かないんです[涙]

初めての宇都宮参加楽しみ~[ムード]
大谷寺も興味津々[ウッシッシ]

では良き春を[クローバー]

by 北国のまき (2017-04-03 10:38) 

梅屋千年堂

>北国のまきさん
アタシの場合、アート鑑賞だけではなく
ミュージアムショップ&カフェもお楽しみのひとつなものですから
事前に「どんなグッズがあるのかな(*^^*)」とチェックしては
現地でついつい散財してしまうのでした(^^;ゞ。
藝大美術館のショップは「藝大グッズ」も売っていてなかなか楽しいですよ。

by 梅屋千年堂 (2017-04-03 22:11) 

おかん

梅屋さんお久しぶりです。kinkiのブンブブーン(日曜・昼)で、エレカシ宮本が着物きて〝お茶〟をやってました。どちらが300万の茶碗か?、片方は3万円の茶碗・・光ちゃん外れ(笑)。裏千家の方のお点前、お茶は深いですね~。「ときわ木」お上品な感じ、お茶によく合う感じが伝わってきます、体にやさしいお味だったのでしょうね!(^^)!

稀勢の里、涙の優勝の日はカップ麺食べましたよ~♪申し訳ないけど自分の欲を言えば怪我を直してもらって町田場所で稀勢の里~!と応援したいです!(^^)!

本日春ツアー初日川口ですね~。


by おかん (2017-04-06 05:07) 

うさぼん

こんばんは。昨日いって参りました。16代あつんどさんには頑張ってもらいたいです。出口付近のアルミ茶碗、大きさが私の手にちょうどよく収まり、楽茶碗良いなあ欲しいなあと思ってしまいました。
by うさぼん (2017-05-15 21:20) 

梅屋千年堂

>うさぼんさん
手捏ねで作られているからか、楽茶碗は持った時に
「手に吸い付くような感じがする」とか
「手にフィットする」などとよく言われますよね。
一般人には国宝・重文クラスのお茶碗を手にすることはそうそう出来ないけれど
あのアルミ茶碗は、ちょっとだけ「なるほど…」と疑似体験が出来て良いですね(^_^)。

by 梅屋千年堂 (2017-05-16 01:40) 

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