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生誕100年 山下清展 [EXHIBITION]

先週断念した展覧会へ。

SOMPO美術館で開催中の『生誕100年 山下清展 −百年目の大回想』である。
先週まだお盆休み期間であることをすっかり失念し、
事前にWEBサイトで50分待ちという情報を目にして気持ちが萎えてしまった。
(現地に向かう前にそれがわかって良かったのだけど)。

9月10日に閉幕してしまうので、
今週あたり行っておかないと行きそびれる可能性大。
しかし…今日の混雑状況はどうだろう?と
美術館が開館してまもない10時ちょい過ぎにチェックしたところ「やや混雑」。
更に10時30分くらいだったか、再度チェックしたら「混雑」。
げぇー…待ち時間はないみたいだけど平日でも混んでるのかー(-_-;。
11時半くらいに腹を括って自宅を出発し、駅で再び混雑状況チェック。
するとアラ!「空いています」ヤッタァヽ(^。^)丿。

ところで…アタシがSOMPO美術館へ行くときのキャッチフレーズがある。
それは…

《今度こそ 迷わず行こう 損保ジャパン》

新宿駅が大の苦手で、もう十中八九迷子になる。
一発で行きたいところへ行けた試しが殆どナイ。
これはきっと新宿駅から行こうとするからだ。
今日は別ルートで、都営大江戸線の都庁前駅から行くことにしよう。
そう思って都庁前で降りて、損保ジャパン本社方面の出口から陸上に出て
こっちだろうという方向に歩き始めたのだが…何故か辿り着けない。
iPhoneに入れてある地図アプリで確認すると
あああーーーーーーまたやっちまった…_| ̄|◯
全然違う方向に向かってるじゃないか!。

再度地下に戻り違う出口からまた陸上に上がって…あ、あった(^o^;。
損保ジャパンの特徴的な本社ビル。
あーもうホントにどうしようもないバカだよアタシは。
多分「苦手だ」という意識が逆に自分を混乱させるんだろうな。

ということで、SOMPO美術館。
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チケットは既にオンラインで購入済み。
1階の入口で提示して、5階の展示室へと進む。


場内は撮影禁止。3〜5階の各展示室の入口にあるバナーのみ撮影可。
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これは確か4階のバナーだったかな?。


山下清の展覧会に行くのは2011年に千葉県立美術館で開催された
『放浪の天才画家 山下清展』以来だ。
あの時は「山下清ってこんな絵も描くんだ?!」と
自分の中での山下清がアップデートされてすごく新鮮な感動があった。
あの時の感動を今日もまた味わいたい。

今回の展覧会のタイトル『生誕100年 山下清展』とあるように
山下清は1922年生まれの画家。
(…って生誕101年じゃんと突っ込んではイケナイ。
 昨年からあちこち巡回している展覧会なので)。
ドラマや映画にもなっているので、放浪の画家として知る人も多いだろう。

展示内容はほぼほぼ時系列で進んで行く。

第1章は《山下清の誕生 − 昆虫そして絵との出合い》。
8歳から10歳くらいの時に、お風呂や食事など自分の日常を
鉛筆で描いた作品から始まるのだけど、
こういう子供の落書き的な絵が捨てずに残されていたことに驚く。
もうこの頃から将来有名な絵描きになることが分かっていたかのように
周りの大人がこれを捨てずにとっておいたことが素晴らしい。

そして12歳頃に制作した昆虫の貼絵へと続く。
昆虫への観察眼もさることながら、脚の部分などが
ものすごく細くちぎった紙で表現されていて、清の手先の器用さを物語る。

ここには清が大人になってから描いたサイン色紙も展示されている。
清は、サインを頼まれると自分の名前だけじゃつまらないだろうからと
昆虫などの絵を添えていたそうなのだけど、
ここにあった『さかな』のペン画が最高にかわいい。
「ℓ(リットル)さかな」と呼ばれてるらしいのだけど
ℓℓℓって感じでさかなが縦に並んでるのだ。
こんな色紙をサッサッサッと描いてもらったら感激しちゃうな。


第2章は《学園生活と放浪への旅立ち》。
養護学校(八幡学園)での生活を描いた貼り絵から始まる。
この頃から既に清の貼絵の才能は炸裂し、天才少年などと称賛を浴びる。
なんか遠近感がへんてこりんだったり、子供っぽさはあるけれど
『身体検査』という作品の壁の模様の細かさには驚くし
そこから2年ばかり経つと「なんかへん」だった遠近感も
『上野の東照宮』という作品では遠近法がかなりしっかりしてきて
これまたビックリ。

貼絵のための材料がなくなると、使用済みの切手やチラシなんかを
使うこともあったそうで、「どれどれ?」と単眼鏡で拡大して見ると
確かに数字や文字が残っていて面白い(^m^)。

18歳になると、八幡学園を脱走(笑)。ここから清の放浪の旅が始まる。
徴兵検査がイヤで逃げ回っていたというのも清らしい。
放浪の間は、魚屋や蕎麦屋・食堂などで働いていたこともあったらしい。
ここで展示されているのは、そうした放浪の間に鉛筆で描いた
絵日記的なスケッチ。
『学園から出かけるところ』(=脱走するところ)から始まり
『汽車道を歩いているところ』『岡部駅で休んで居るところ』
『横濱の港で遊んで居るところ』『新しいリュックの中へ品物をしまうところ』
『易者に運勢を見て貰った時の事』…などとにかく素朴。
思わず笑ってしまったのは『水に溺れた時の事』。
本人は本気で死ぬと思った事件なので笑っては申し訳ないのだけど
砂浜で倒れて何かを吐いている絵が可笑しくて(^^;。

更にここには清が放浪の間着用していた浴衣やリュックサックも展示。
リュックの中には茶碗、箸、手拭い、着替えの他
犬に吠えられた時に護身のために使う石ころ5個が入っていたらしい(笑)。

清は放浪の間に観てきた景色も貼絵として制作したけれども
これは放浪しながら制作したのではなく、
放浪から戻ってきてから、自分の中の記憶とイメージを元に
描いていたのだそうで、オソルベキ記憶力の持ち主だったようだ。
そうして制作された貼絵のひとつが、清の代表作ともいえる『長岡の花火』。
これはもうもちろん誰もが認める凄い最高傑作だけれども
記憶だけで描いているのだとしたら
具体的な風景を表した『金町の魚つり』とか『神宮外苑』なども、
これはかなりすごいんじゃないか?と思う。

こうして日本全国放浪してきた清だったけど
1954年の鹿児島を最後に「放浪を辞める誓い」を立てて
放浪生活に終止符を打った、とのこと。
この時の『桜島』という貼絵の波の表現があまりの細かくて
じっと観てるとクラクラしてくる(笑)。


第3章は《画家・山下清のはじまり − 多彩な芸術への試み》。
最初は「油彩画への挑戦」。山下清の油彩画…初めて観たかも。
ここで「これはスゴイ!」と感動したのは
伊藤若冲の動植綵絵『群鶏図』をモチーフにした『群鶏』という作品。
いきなりパッと目の前に出されても山下清だとは思えないけど
これは一度観たら忘れられない群鶏図。
ゴッホ風の『ぼけ』という作品も良かったし、
山下清って油彩画の才能も炸裂してる!と感動したけど
なにやら本人的にはあまり肌に合わなかったらしく
十数点だけ描いて油彩画は辞めちゃったらしい。

そしてペン画。
これは、とあるメーカー(寺西化学工業かな?)から
フェルトペンを大量に贈られたことが始まりだそう。
ものの輪郭は線で、陰影は点描で精緻に表現されていて
山下清の新境地という感じ。
ここでは主に日本の名所やお祭を描いた作品が多く展示されていて
『奈良二月堂』『はまごう』『石庭』『お蝶夫人屋敷』が印象的。
『小石川の後楽園』は、ジェットコースターの骨組みを描くのに
たいそう難儀したようで、その苦労が伝わってくる。


第4章は《ヨーロッパにて − 清がみた風景》。
日本国内は殆ど行き尽くしてしまったので、
外国に行ってみたくなった清はヨーロッパへ
(放浪ではなく歴とした旅行として)。
この旅行で観たものを描いたペン画や貼絵がとても良い。
ちょっと巧すぎて山下清じゃなく見えるくらい(笑)。
貼絵ではいいなと思ったのは『ハイデルベルグの古城』。
川に映りこんだ石橋の影の描写がすごくイイ。
それと『ロンドンのタワーブリッジ』。
テムズ川を行く遊覧船に乗っている人々が、5mmくらいの大きさなのだけど
単眼鏡で拡大してみると物凄く細かく描き込まれている(◎_◎)。

ペン画では有名な『パリのエッフェル塔』や『ロンドンのタワーブリッジ』も
もちろん良いのだけど、個人的には『ストックホルムの夜景』や
『ベニスのゴンドラ風景』がお気に入り。
特に『ベニスのゴンドラ風景』は街灯を手前に大きく配した構図が
なにやら歌川広重っぽくてカッコイイのだ。

ちなみに作品のキャプションには
清が旅行記に記した文章が添えられていて、これが独特の文体で面白い。
あんまり面白いんで、このあたりの本をちょっと読んでみたくなった。

ヨーロッパぶらりぶらり (ちくま文庫)

ヨーロッパぶらりぶらり (ちくま文庫)

  • 作者: 山下 清
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1994/09/21
  • メディア: 文庫



日本ぶらりぶらり (ちくま文庫)

日本ぶらりぶらり (ちくま文庫)

  • 作者: 山下 清
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1998/04/23
  • メディア: 文庫



最後の第5章は《円熟期の創作活動》。
ここでまたアタシの中で山下清アップデート!。
清は陶芸の絵付けにもチャレンジしていた!。
これが素朴で良いのさ〜。
お気に入りは京都の大文字焼の様子を壺に描いた『大文字焼風景(牛ノ戸焼)』。

最後の展示は清の遺作である『東海道五十三次』。
このうち11点(ペン画1点、版画10点)が展示。
そのうちに一つが「おや?これはなんだか観たことのある風景だな…」
と思ってタイトルを見たら
『東海道五十三次・川崎大師(川崎)』だった。

1964年から『東海道五十三次』の制作を開始。
ところが1969年に『熱田神宮』を描き終えたところで
高血圧が原因で眼底出血を起こして製作を一時中断。
回復しつつあったけれども、1971年7月に脳溢血で亡くなった。享年49歳。
その前の家族との夕食後の会話での
「今年の花火大会はどこに行こうかな」が最後の言葉だったそう。

こうして『東海道五十三次』は未完に終わったかに思われたが
清の死後、アトリエから残りの13枚が発見されて
全55点が揃って完結したとのこと。

…55点、全部見てみたいなぁ。
もはや電子書籍しかないけど、いずれこれも見てみたいな。

裸の大将遺作 東海道五十三次(小学館文庫)

裸の大将遺作 東海道五十三次(小学館文庫)

  • 作者: 山下清
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2018/07/01
  • メディア: Kindle版



いやー…それにしても見応え200%の展覧会だった。
(だからかレポもめっちゃ長くなってしまった…笑)。
割と空いていたこともあり、キャプションもじっくり読んじゃったもんで
全部観終わるのに2時間半。さすがに疲れた。

ショップでは図録が欲しいな…とも思ったけれど
いや、山下清の良さは、特に貼絵に関しては印刷物では伝わらない。
清がそうだったように、頭の中にしっかりとしまっておこう。
(なんて言いつつ、ちっとも伝わらないポストカードは買ったりして)。




外に出たら、うわー!夏空。
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思わず
「♪摩天楼〜越しに〜覗い〜た〜 青空が好きとあの日〜…」
なんて心の中で歌ってしまった。
(『私的恋愛論』/作詞:高見沢俊彦)
コメント(2) 

コメント 2

おかん

とても魅力的な方でとても素敵な作品、
テレビ(新美)でも見て、是非とも行ってみたいと思っていました。来週行かねば!
by おかん (2023-08-26 23:03) 

梅屋千年堂

>おかんさん
アタシも「新美の巨人たち」観ました。
番組でクローズアップされていた「長岡の花火」や「自画像」も凄いけど
この展覧会ではもっと凄い(とアタシは思う)作品が盛り沢山。
真剣に観てるとかなり疲れますので、体調の良い日をオススメします(笑)。

by 梅屋千年堂 (2023-08-26 23:20) 

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