ガウディとサグラダ・ファミリア展 [EXHIBITION]
6月28日に観てきた展覧会。
場所は東京国立近代美術館。
アントニ・ガウディは1852年、スペイン生まれの建築家。
バルセロナにある未だ建築途中のサグラダ・ファミリアを
設計したことであまりにも有名だ。
若かりしガウディが、どのようなことに影響されて
後年の独創的な建築の発想へと繋がっていったのか、
また彼が手掛けたサグラダ・ファミリアにおける
これまでの建設プロセスや世界観を紐解いていく展覧会である。
展示のド頭にいきなり登場するのが
26歳頃のガウディの肖像写真と、亡くなった直後に制作されたデスマスク。
ガウディは73歳の時に悲しい死を迎えるのだ(それについてはまた後程)。
展示の前半は、ガウディがバルセロナ建築学校で
どのような勉強をしていたのかといったことやその創造性の源、
サグラダ・ファミリア以外の仕事に見られる特徴などが紹介される。
興味深かったのは「破砕タイル」の話と「つりあいの法則」の話。
ガウディの建築の特徴のひとつとして
破砕タイルによる装飾があげられるけれど、それは単なる装飾ではなく
これもガウディの建築の特徴である曲面を被覆して
防水加工するためという実用的な意味があること。
また、複数の細い紐に錘(おもり)を付けて垂らし
そのたわみを反転させたものを教会の塔などの骨格に用いる
「つりあいの法則」も奇抜なアイデアだけど
自然の法則に則ったものこそに高い安定性があるという説得力がある。
(その実験の様子を再現した模型や、当時の写真などを見ると
あまりの面倒臭さにちょっと頭が変になりそうだけど^^;)。
一見曲線と曲面ばかりに見えるガウディの建築が
実は理論的な幾何学から生み出されているということも目から鱗だった。
後半の展示はサグラダ・ファミリア聖堂について。
さまざまな資料や模型から、その壮大な建築の軌跡を辿る。
撮影可能エリアで最初に待ち構えているのが
サグラダ・ファミリアの〈降誕の正面〉に設置されていた塑像や石膏像。
こちらは外尾悦郎氏による『歌う天使たち』の石膏像で
2000年に砂岩で制作された石像に置き換わるまで
実際にサグラダ・ファミリアに設置されていたものとのこと。
外尾悦郎氏は1978年からサグラダ・ファミリアの彫刻に携わり
現在はその主任彫刻家を任されている人物。
天使の顔が…なんだかとても日本人っぽい。
展覧会ではそのことについては特に何も触れていなかったけれども
外尾氏について少しググってみたところ、2019年の日経ビジネスの記事に
「天使が西洋人という決まりはない」と考え、
東洋人の顔をした天使も盛り込んだ
という記載を見つけて納得。
こちらは〈生誕の正面〉の彫刻マップ。
外尾氏が彫った天使たちは「ベツレヘムの星」と呼ばれるところにいる。
『サグラダ・ファミリア聖堂、身廊部模型』(西武文理大学)。
模型とは言え、かなり大きい。
アントニ・ガウディ『サグラダ・ファミリア聖堂、クリプタ付属の卓上燭台』。
サグラダ・ファミリア聖堂は未完ではあるが
そのクリプタ(地下聖堂)において礼拝が行われていて
既に聖堂としての機能を果たしていたことから、
未完であることが許されていたとのこと。
この燭台はそのクリプタで使用されていたもので、ガウディの手によるもの。
ちなみに、ガウディはサクラダ・ファミリアの二代目建築家。
初代建築家はフランシス・ビリャールという人。
教会との意見の対立で就任翌年に辞任してしまい
その後をガウディが引き継いだのだけど、
当時はまだ30代そこそこの若さで、全くの無名だったそうだ。
『サグラダ・ファミリア聖堂、受難の正面:鐘塔頂華の模型』
(スケール 1:10 製作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室)
背後のスクリーンには実際のサグラダ・ファミリアに建つ鐘塔頂華が
映し出されている。
『サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:鐘塔頂華の模型』
(スケール 1:25 製作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室)
アントニ・ガウディ『サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:鳩の石膏像』。
〈降誕の正面〉にある、糸杉の周囲にいる白い鳩。
画像では分かりづらいけれど、かなりデカイ。
この大きな鳩が先述の彫刻マップの緑色に彩色されたところに複数羽いる…
とイメージするだけで、サグラダ・ファミリアの壮大さが伝わってくる。
撮影不可だったけれども、ジュゼップ・マリア・スビラクスが手掛けた
〈受難の正面〉の彫刻もとても印象深かった。
スビラクスはガウディのオリジナル案を踏襲せず
独自の解釈でキリストの受難を表現。
それは写実的な彫刻ではなくキュビスム風の近代的で斬新な彫刻。
保守的な人は反対するだろうなぁ…と思われるようなものだけど
聖堂の建設委員会はこれを認めたというからカッコイイ。
日本人の彫刻家を起用したり、ちょっと前衛的な彫刻を認めたり
そういう寛容さが素晴らしいと思った。
アントニ・ガウディ『サグラダ・ファミリア聖堂、側廊高窓オリジナル模型』
(スケール 25:1 サクラダ・ファミリア聖堂)
アントニ・ガウディ『サグラダ・ファミリア聖堂、側廊高窓外観頂部オリジナル模型』
スケール 1:10 サクラダ・ファミリア聖堂
現存する数少ないガウディのオリジナル模型。
色の異なる部分があるのは、1936年スペイン内戦により
破壊されてしまったオリジナル模型を修復・復元しているため。
ガウディの死後は、ガウディが残した模型を元に
聖堂の建設が続けられていたのだけど、スペイン内戦で模型の殆どは破壊され、
図面類も散逸・焼失してしまったのだそう。
そのことがサグラダ・ファミリアの建設を難しくしてしまい
「完成まで300年かかる」とかつては言われていた。
子供の頃、この話を聞いて「なんじゃそりゃ!」ととても驚いた記憶がある。
今生きてる人は誰もこの聖堂の完成を観ることはないのかと
物凄く気が遠くなったものだった。
ところが近年コンピューター解析と3Dプリンタの技術が進んだこと、
観光収入などで資金が潤ったことなどから急ピッチで建設が進み
2026年には完成するという。
どうやら生きてるうちに、サグラダ・ファミリア完成の瞬間が観られそうじゃん!。
(もちろん現地でではなく各種メディアで、だけど^^;)。
しかしそんな事実とは裏腹に、
展示室にはこのようなガウディの言葉が掲げられていた。
ガウディは、1926年6月7日、サグラダ・ファミリアでの仕事を終えて
教会でのミサに向かう途中に転倒し路面電車にはねられてしまう。
事故当時、はねられた老人がガウディだとは誰も気付かず
3台のタクシーが病院への搬送を断ったという。
事故の3日に帰らぬ人となったガウディ。
その遺言にしたがって、葬儀は簡素に行われたが
遺体を運ぶ馬車の後ろには1.5kmにも及ぶ行列ができたそうだ。
展示の終盤では、NHKが撮影した高精細映像や
ドローン映像を上映するコーナーがあるのだけど
これがとても美しくて、観てるだけでウルウルしてしまった。
(ここで同じ映像を観ることができる)。
7月1日深夜に、これまでNHKが放送してきたサグラダ・ファミリア関連の番組を
まとめて再放送するというので楽しみにしていたのだけど
大雨関連のニュースのため、中止になってしまった。
それでも今月23日の『日曜美術館』はサグラダ・ファミリア特集だし
NHK Eテレで7/26と8/2に放送される『NHKアカデミア』では
外尾悦郎氏が登場するらしいので、こちらも見逃せない。
おそらくこの先の人生でサグラダ・ファミリアを観るために
バルセロナに行くことはないと思うけど、その完成はとても楽しみだ。
場所は東京国立近代美術館。
アントニ・ガウディは1852年、スペイン生まれの建築家。
バルセロナにある未だ建築途中のサグラダ・ファミリアを
設計したことであまりにも有名だ。
若かりしガウディが、どのようなことに影響されて
後年の独創的な建築の発想へと繋がっていったのか、
また彼が手掛けたサグラダ・ファミリアにおける
これまでの建設プロセスや世界観を紐解いていく展覧会である。
展示のド頭にいきなり登場するのが
26歳頃のガウディの肖像写真と、亡くなった直後に制作されたデスマスク。
ガウディは73歳の時に悲しい死を迎えるのだ(それについてはまた後程)。
展示の前半は、ガウディがバルセロナ建築学校で
どのような勉強をしていたのかといったことやその創造性の源、
サグラダ・ファミリア以外の仕事に見られる特徴などが紹介される。
興味深かったのは「破砕タイル」の話と「つりあいの法則」の話。
ガウディの建築の特徴のひとつとして
破砕タイルによる装飾があげられるけれど、それは単なる装飾ではなく
これもガウディの建築の特徴である曲面を被覆して
防水加工するためという実用的な意味があること。
また、複数の細い紐に錘(おもり)を付けて垂らし
そのたわみを反転させたものを教会の塔などの骨格に用いる
「つりあいの法則」も奇抜なアイデアだけど
自然の法則に則ったものこそに高い安定性があるという説得力がある。
(その実験の様子を再現した模型や、当時の写真などを見ると
あまりの面倒臭さにちょっと頭が変になりそうだけど^^;)。
一見曲線と曲面ばかりに見えるガウディの建築が
実は理論的な幾何学から生み出されているということも目から鱗だった。
後半の展示はサグラダ・ファミリア聖堂について。
さまざまな資料や模型から、その壮大な建築の軌跡を辿る。
撮影可能エリアで最初に待ち構えているのが
サグラダ・ファミリアの〈降誕の正面〉に設置されていた塑像や石膏像。
こちらは外尾悦郎氏による『歌う天使たち』の石膏像で
2000年に砂岩で制作された石像に置き換わるまで
実際にサグラダ・ファミリアに設置されていたものとのこと。
外尾悦郎氏は1978年からサグラダ・ファミリアの彫刻に携わり
現在はその主任彫刻家を任されている人物。
天使の顔が…なんだかとても日本人っぽい。
展覧会ではそのことについては特に何も触れていなかったけれども
外尾氏について少しググってみたところ、2019年の日経ビジネスの記事に
「天使が西洋人という決まりはない」と考え、
東洋人の顔をした天使も盛り込んだ
という記載を見つけて納得。
こちらは〈生誕の正面〉の彫刻マップ。
外尾氏が彫った天使たちは「ベツレヘムの星」と呼ばれるところにいる。
『サグラダ・ファミリア聖堂、身廊部模型』(西武文理大学)。
模型とは言え、かなり大きい。
アントニ・ガウディ『サグラダ・ファミリア聖堂、クリプタ付属の卓上燭台』。
サグラダ・ファミリア聖堂は未完ではあるが
そのクリプタ(地下聖堂)において礼拝が行われていて
既に聖堂としての機能を果たしていたことから、
未完であることが許されていたとのこと。
この燭台はそのクリプタで使用されていたもので、ガウディの手によるもの。
ちなみに、ガウディはサクラダ・ファミリアの二代目建築家。
初代建築家はフランシス・ビリャールという人。
教会との意見の対立で就任翌年に辞任してしまい
その後をガウディが引き継いだのだけど、
当時はまだ30代そこそこの若さで、全くの無名だったそうだ。
『サグラダ・ファミリア聖堂、受難の正面:鐘塔頂華の模型』
(スケール 1:10 製作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室)
背後のスクリーンには実際のサグラダ・ファミリアに建つ鐘塔頂華が
映し出されている。
『サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:鐘塔頂華の模型』
(スケール 1:25 製作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室)
アントニ・ガウディ『サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:鳩の石膏像』。
〈降誕の正面〉にある、糸杉の周囲にいる白い鳩。
画像では分かりづらいけれど、かなりデカイ。
この大きな鳩が先述の彫刻マップの緑色に彩色されたところに複数羽いる…
とイメージするだけで、サグラダ・ファミリアの壮大さが伝わってくる。
撮影不可だったけれども、ジュゼップ・マリア・スビラクスが手掛けた
〈受難の正面〉の彫刻もとても印象深かった。
スビラクスはガウディのオリジナル案を踏襲せず
独自の解釈でキリストの受難を表現。
それは写実的な彫刻ではなくキュビスム風の近代的で斬新な彫刻。
保守的な人は反対するだろうなぁ…と思われるようなものだけど
聖堂の建設委員会はこれを認めたというからカッコイイ。
日本人の彫刻家を起用したり、ちょっと前衛的な彫刻を認めたり
そういう寛容さが素晴らしいと思った。
アントニ・ガウディ『サグラダ・ファミリア聖堂、側廊高窓オリジナル模型』
(スケール 25:1 サクラダ・ファミリア聖堂)
アントニ・ガウディ『サグラダ・ファミリア聖堂、側廊高窓外観頂部オリジナル模型』
スケール 1:10 サクラダ・ファミリア聖堂
現存する数少ないガウディのオリジナル模型。
色の異なる部分があるのは、1936年スペイン内戦により
破壊されてしまったオリジナル模型を修復・復元しているため。
ガウディの死後は、ガウディが残した模型を元に
聖堂の建設が続けられていたのだけど、スペイン内戦で模型の殆どは破壊され、
図面類も散逸・焼失してしまったのだそう。
そのことがサグラダ・ファミリアの建設を難しくしてしまい
「完成まで300年かかる」とかつては言われていた。
子供の頃、この話を聞いて「なんじゃそりゃ!」ととても驚いた記憶がある。
今生きてる人は誰もこの聖堂の完成を観ることはないのかと
物凄く気が遠くなったものだった。
ところが近年コンピューター解析と3Dプリンタの技術が進んだこと、
観光収入などで資金が潤ったことなどから急ピッチで建設が進み
2026年には完成するという。
どうやら生きてるうちに、サグラダ・ファミリア完成の瞬間が観られそうじゃん!。
(もちろん現地でではなく各種メディアで、だけど^^;)。
しかしそんな事実とは裏腹に、
展示室にはこのようなガウディの言葉が掲げられていた。
ガウディは、1926年6月7日、サグラダ・ファミリアでの仕事を終えて
教会でのミサに向かう途中に転倒し路面電車にはねられてしまう。
事故当時、はねられた老人がガウディだとは誰も気付かず
3台のタクシーが病院への搬送を断ったという。
事故の3日に帰らぬ人となったガウディ。
その遺言にしたがって、葬儀は簡素に行われたが
遺体を運ぶ馬車の後ろには1.5kmにも及ぶ行列ができたそうだ。
展示の終盤では、NHKが撮影した高精細映像や
ドローン映像を上映するコーナーがあるのだけど
これがとても美しくて、観てるだけでウルウルしてしまった。
(ここで同じ映像を観ることができる)。
7月1日深夜に、これまでNHKが放送してきたサグラダ・ファミリア関連の番組を
まとめて再放送するというので楽しみにしていたのだけど
大雨関連のニュースのため、中止になってしまった。
それでも今月23日の『日曜美術館』はサグラダ・ファミリア特集だし
NHK Eテレで7/26と8/2に放送される『NHKアカデミア』では
外尾悦郎氏が登場するらしいので、こちらも見逃せない。
おそらくこの先の人生でサグラダ・ファミリアを観るために
バルセロナに行くことはないと思うけど、その完成はとても楽しみだ。
2023-07-08 23:59
コメント(4)
この展示会も興味あったので、会期中に行きたいと思ってます。
(と言いつつ毎回ギリギリになる)
正直、極彩色の曲線と曲面を多用してる作品を見てるとクラクラしてきますが、サグラダ・ファミリアはとても興味あります。
日本人彫刻家が参加して東洋人顔の彫刻を作っていたと言うのも興味深いです。
>今月23日の『日曜美術館』はサグラダ・ファミリア特集だし
まだ先か~と思いつつテレビ欄チェックしてたら、来週はかこさとしさん特集ではないですか。即、週間予約しました。
by YAYOI (2023-07-10 07:54)
>YAYOIさん
なかなか見応えのある展覧会ですよ。
9/10(日)までやってますので機会があれば是非。
サグラダ・ファミリア聖堂は100%人工の建造物なのに
まるで自然発生的に地面からにょきにょき生えてきたような
有機的なものを感じさせます(…タケノコじゃあるまいし笑)。
マティスのロザリオ礼拝堂もそうですが、
サグラダ・ファミリアは一般的な(中世的な)教会の概念を
覆していますが、それを依頼主や信者のみなさんが寛い心で
受け入れているところが素晴らしいなと感じます。
日曜美術館、毎週録画しています。
HDDの容量の関係でやむを得ず観ずに消去することもありますが
今まで興味がなかったものにも興味を湧かせてくれる良い番組です。
by 梅屋千年堂 (2023-07-10 22:49)
22日に観に行ってきました。
梅屋さんがブログに色々書いて下さったのを読んで行ったお陰で、とても楽しめました。
>まるで自然発生的に地面からにょきにょき生えてきたような有機的なものを感じさせます
そうですね。その生き物のような感じに妙に惹き付けられるのかも。
私は内部の柱は森の巨木やナウシカの腐海の深部の底の巨木のようだと思いました。
トルコで見たカッパドキアのキノコ岩みたいだとも。
梅屋さんが受難の正面の鐘塔頂華の模型を、背後の動画に本物が映るタイミングで撮影されたセンスが素晴らしいです。
私はそんなこと思いつきもしませんでした。
会期中にもう一度観に行きたい気もしますが、よしおが~(^o^;
by YAYOI (2023-07-24 22:40)
>YAYOIさん
YAYOIさんのブログの記事も拝見しました。
しっかり細かいところまでちゃんとご覧になっていて凄い!と思いました。
アタシは自分の興味があまりないところは結構スルーしてしまうので(^^;ゞ。
鐘塔頂華の模型の写真は、最初は何も考えずに撮ろうとしていたのですが
たまたま後ろのスクリーンに実物の映像が出てくる場面があったので
映像がもう1周するのを待って撮ったような気がします。
改めて自分が撮った写真を見ると、鐘塔頂華のテッペンの丸いところが
(≧0≦)←こんな感じの顔にしか見えないです(笑)。
そういえば大相撲名古屋場所千秋楽に気を取られて
23日の日曜美術館を観るのを忘れていました(^o^;。
勝手に録画されている筈なので明日にでも観ようと思います。
by 梅屋千年堂 (2023-07-26 01:03)