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特別展 国宝 鳥獣戯画のすべて [EXHIBITION]

4月14日に行ってきた展覧会のこと。

本来ならば昨年開催されるはずだったこの展覧会が
改めて始まったのは4月13日。
今後また何があるかわからないので早いとこ行っておこうと
会期二日目の14日の12時入場の予約を取った。

この日は朝から結構な雨降り。
12時少し前にトーハク(東京国立博物館)に到着。
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荷物をコインロッカーに押し込んで、トイレに寄ってから入場列に。
ひとりひとり事前予約チケットのチェックを経て入場。
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大抵の展覧会はエスカレーターを上がって左手が第一会場なのだけど
今回はぐるっとUターンして特設ショップの前を通過し
いつも第二会場になっている方が第一会場となる。

今回の展示の目玉はなんと言っても『鳥獣戯画』全4巻の全場面を
通期にわたり一挙に見せてしまおうというところ。
これまでも何度か『鳥獣戯画』の展覧会はあったけれど
前期後期で場面替えがあるのが通例だった。
4巻全ての全場面をいっぺんに1つの展示室で見られる…これはスゴイ。


《第一章 国宝 鳥獣戯画のすべて》
オリジナルを観る前に、まずは『鳥獣戯画模本(住吉家旧蔵本)』で予習。
この模本には高山寺のオリジナルにはない場面が描かれている。
こうした模本は、鳥獣戯画の元の姿を知る手助けになるという。

この模本の展示室の奥を左に曲がると
いよいよ鳥獣戯画全巻全場面が待つ大きな空間へ。

鳥獣戯画の中で最も有名で最も親しまれている甲巻を観るための列に並ぶ。
順番を待ちながら主要場面を拡大したパネルでまた予習。

甲巻は、なんと展示室内に設置された「動く歩道」に載って鑑賞する。
鑑賞者の停滞=密を防ぐ作戦。
どんなに係の人が注意しても展示ケースの前で立ち止まり
ガンとして動かない人が一定数はいるので、これはナイスアイデア。
歩道のスピードも速すぎず遅すぎず適度。とてもよく考えられている。
しかもお一人様1回という制限もなく、
再度並び直せば何度でも観ることができるのだ。

鳥獣戯画甲巻は、兎と猿の水遊びから始まり、
賭弓、宴の準備(?)、兎から供物を受け取る猿の僧正、
蛙に追われる猿、仰向けになって倒れる蛙を野次馬が囲む…
踊る蛙に、兎と蛙の相撲、相撲に負けてひっくり返る兎と吼える蛙、
双六盤を担ぐ猿、法会に参加する動物たち、
蛙の本尊を前に法会を行う猿の僧正。
法会の後、猿の僧正に兎たちから供物が捧げられる…。

2014年に京都で開催された『国宝 鳥獣戯画と高山寺店』、
2015年にトーハクで開催された『国宝 鳥獣戯画 -京都 高山寺の至宝』で
半分ずつ観た鳥獣戯画。
自分の中での目新しさはなかったけれど
全部いっぺんに広げた際の長さを実感した。

乙・丙・丁巻は歩いて鑑賞。

乙巻は動物が動物として描かれている。
実在のものから、架空のものまで多岐にわたる。
実在の動物も当時から日本にいたものから、
まだ日本にはいなかった筈のものまで。
馬から始まって牛、鷹、犬、隼(ハヤブサ)と鷲、
犀(サイ)または霊亀または玄武、麒麟、豹、山羊、
虎、獅子、龍、白象、獏で終わる。
虚と実が入り乱れて、最後は夢を食べる獏で終わるというのがどこか意味深。


丙巻の前半は「人物戯画」。
さまざまな遊び(?)に興じる人々が描かれて
囲碁、双六で負けて身ぐるみ剥がされる男と悲しむ妻、
僧侶と稚児の将棋、耳引き、首引き、目くらべ(にらめっこ)、
腰引き、闘鶏、闘犬…と続く。

後半は「鳥獣戯画」ふたたび。
鹿に乗った猿のレース、牛に引かせた山車=祭の行列、
蛙と猿の蹴鞠、蛙と猿の験比べ、蛇が登場して驚く蛙。
丙巻の動物たちは甲巻と比べると、あまり可愛くない(^^;。

ちなみに丙巻の人物戯画と動物戯画は
元々は1枚の紙の表と裏に描かれていたもの。


最後の丁巻も「人物戯画」。
曲芸、修験者と僧侶の験比べ、(甲巻の猿の法会を踏まえた)人間たちの法会、
流鏑馬、田楽、打毬、木遣り、ひっくり返る人、法会、印地打、
牛車の牛が大暴れ、囃子方と舞う男…。

丁巻の印象はいつ観ても変わらない。
粗くて太い筆遣いで雑に描かれているように見えるけれど
実はとても高い画力の持ち主が、
素速くそして勢いよく描いたことが伝わってくる。
木遣りに続く法会の場面で、振り返る男の顔だけが妙にリアルで
「ワタシ本気を出せばこれくらい描けるんです」という
アピールに思えてくる。

鳥獣戯画は4巻どれも個性があって面白いのだけど
甲巻が素晴らしいのはやっぱりそのストーリー性だったり
キャラクターの愛らしさだったり、背景まで描かれている丁寧さ、
そんなところなのかな、という気がした。


『鳥獣戯画』全巻全場面を堪能したあとは、第二会場へ移動。


《第二章 鳥獣戯画の断簡と模本 -失われた場面の復原》
元々の『鳥獣戯画』から切り離されて掛け軸にされた断簡と、
元々の『鳥獣戯画』を写し取った模本の展示。

個人的には今回の展示の中で実はここが一番面白くて
今回の展覧会が「鳥獣戯画のすべて」と銘打たれている
理由がわかった気がした。

断簡としては
・東博本
・益田家旧蔵本
・高松家旧蔵本
・MIHO MUSEUM本
模本としては
・長尾家旧蔵本(伝・土佐光信筆)
・住吉家旧蔵本(第一会場の冒頭で紹介されていたもの)

これらを総合して甲巻の元の姿を復原したパネル展示がとても興味深い。
今の甲巻と順番が全然違うのだ。
ただこれが本当の意味でのオリジナルというわけではなく
まだ他にも失われた部分がある可能性もあるという。

どうしてこんな風に切り離されてしまったのか?
どうして今はこんな順番になっちゃったのか?

…謎が多い甲巻だけに、いろいろ妄想するのも楽しい。

長尾家旧蔵本に描かれている猿の走り高跳びや
兎のスライディング場面はあまりにも現代風過ぎて
観た瞬間「これウッソだぁ〜。絶対に誰かが最近付け加えたでしょ〜」などと
物凄い疑いの眼差し手観てしまったけど、
狩野探幽が描いた『鳥獣戯画模本(探幽縮図)』にも
同じ場面が描かれていたので、やっぱりウソじゃないんだ(^^;と。

もしかしたら、きっとまだ世に出ていない断簡がどこかにあるのでは?
何十年か後にはまた新たな発見がなされているかも?
そんな風に想像するだけでワクワクしてきた。


《第三章 明恵上人と高山寺》
展示の最後は「鳥獣戯画」と常にセットで語られる高山寺と
その再興を果たした明恵上人に関する展示。
今までの鳥獣戯画展でもお馴染みの
『華厳宗祖師絵伝 義湘絵』や『小犬』の他、
『明恵上人坐像』『明恵上人歌集』などが展示されていた。

音声ガイドで紹介されていた明恵上人の歌がシュールだ。

「あかあかやあかあかあかやあかあかや あかあかあかやあかあかや月」

なんかもう、とてつもなく明るくて美しい月だったんだろうねぇ。

その他で印象的だったのは、天竺へ行きたがった明恵上人が
春日明神が乗り移った親類の女性に引き留められて
渡航を断念させられた話を描いた『春日権現験記絵』や
明恵上人の夢日記的な『夢記』、
日本最古のタツノオトシゴの標本と云われる『龍子(たつのこ)』。

『龍子』はまるでタツノオトシゴのミイラという感じで
カラカラに干からびた標本なのだけど
この状態で今日まで朽ちることなく形を保って残っていることに驚いた。


そのためまだ少し余力があったので、
本館の展示も少し覗いてみることにした。

本館では『鳥獣戯画展』と関連して「鳥獣戯画スピンオフ」や
「博物館で動物めぐり」という特集が組まれている。
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これは明治時代に山崎董詮によって描かれた鳥獣戯画の模本。
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「動物めぐり」では動物をモチーフにした作品をフィーチャー。
全部を観るのは大変なので、浮世絵のコーナーと
高円宮様の根付コレクションのところだけチラ見。

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歌川広重『山吹に蛙』。
賛と山吹と蛙と水の配置のバランスがカッコイイ。


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魚屋北溪『三十六禽続・犬』。
魚屋北溪(ととやほっけい)は北斎の弟子だった人。
わんこ、かわいい(*^^*)。
しかし、くわえている鮭の切り身デカすぎ(笑)。


高円宮様の根付コレクションは、
普段からかわいい動物をモチーフにした作品が展示されている。

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寄金佐和子『ペンギン』


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スーザン・レイト『孵化するヤモリ』


あとこれは動物ではないのだけど、あまりのリアルさに感動。
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黒岩明『端材リンゴ』
象牙で出来ている。


最後は自分土産
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電話帳みたいに物凄く分厚くて重たかったのだけど
断簡や模本をじっくり観たくて図録を買ってしまった…。

それと京都の老舗 雲母唐長(きらからちょう)の一筆箋に
BANDEのマスキングロールステッカー。

残念なことに、東京都の緊急事態宣言によって
トーハクも4月25日から臨時休館になってしまった。
個人的には早くに観ておいてよかったと思うけれども
とてもいい展覧会だし、こんなに落ち着いた中で
鳥獣戯画を鑑賞できる機会はそうそうない。
会期中(5/30)までに再開されることを心から願っている。
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