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「深川の雪」と「吉原の花」 [EXHIBITION]

やっと観てきた歌麿の大作(←昨日のお話)

2014年、岡田美術館にて66年ぶりに公開された
喜多川歌麿の肉筆画『深川の雪』。
以来毎年一定時期、岡田美術館で公開してくれるので
その度に「行かなくては!」「今度こそ行かなくては!」「次こそ行かなくては!」
…と、思いながらげりら豪雨や大涌谷の噴火に阻まれて
「まぁ…次の機会でいっか(^o^;」と見送り続けてきた。

が、今回だけはさすがに見送るわけにはいかない。

何故ならば、アメリカはコネチカット州、ワズワース・アセーニアム美術館から
『吉原の花』も来日しているからである。
この2作品の再会は、なんと138年ぶりになるのだとか。

元々『深川の雪』は、歌麿が栃木の善野屋から注文を受けて描いたとされる
『雪月花』三部作の1つ。
他の2作品、『吉原の花』はワズワース・アセーニアム美術館、
『品川の月』はワシントンD.C.のフリーア美術館の所蔵となっている。

残念ながら、フリーア美術館のコレクションには門外不出の掟があるために
『品川の月』はここから出ることが出来ない。
なので、三部作全てを日本で観ることは叶わないのだけど
その代わりに今回の展示では『品川の月』の高精細複製画を展示して
三部作を並べて鑑賞する気分(笑)を味わうことが出来るのだ。


朝8時過ぎに自宅を出発して、小田原到着が9時半近く。
そこから箱根登山バスに乗って岡田美術館へ行くつもりだったのだが
バス乗り場に行ってみると…
うわっ!ご年配の団体様が10人以上並んでいる( ̄口 ̄;)。
どこまでいらっしゃるのかは分からないが、これではおそらく座れない。
30分強、激しいカーブの続く道程をずっと立ってるのはキツイ…。
どうしよう、1本遅らせるか…と考えながら、フと隣のバス乗り場を見たら
伊豆箱根バスの箱根関所行きのバスが停まっていて
経由地に「小涌園」と書いてあるではないの!。しかも空いてる。
こっちで行こう。

というわけで、バスに揺られて(マジで揺られて)10時20分くらいに岡田美術館到着。
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岡田美術館を訪れるのはこれで3度目。
もう勝手知ったるなんとやら…で、必要最小限のものだけを持ち
あとはコインロッカーにぶち込んでチケット売り場へ。

ド平日とはいえ、歌麿の肉筆画の大作がはるばるアメリカから来ているだけあって
チケット売り場には列が出来ていた。
¥2,800でチケットを買い求め、金属探知機をくぐりぬけ
巨大な風神雷神図の前を通…っていくのが正規ルートなんだけど
1階の常設展示(中国・韓国陶磁)は今日はもう観なくていいやってんで
右側の本来出口である扉から入ってエスカレーターで2階に。

2階の展示室に入ると、このフロアの常設展示である日本陶磁の向こうに
『雪月花』の三部作が並んでいるのが見えた。

いきなり一直線にそっちに行くのもなんなので
まずは常設展示の陶磁を半分くらい鑑賞し、
ある程度気持ちが高まったところで(^^;ゞ、歌麿の大作とご対面。


大きくて横長の展示ケースの中に
『品川の月(高精細複製画)』『吉原の花』『深川の月』の順で並んでいる。
どれも想像していた以上に大きくて、壮観!圧巻!。

まずは『品川の月』。
複製画だけれども、何も知らずに観たら
アタシのような素人にはホンモノにしか見えないくらい高精細。
雰囲気は十二分に伝わってくる。
品川の妓楼(食売旅籠:めしうりはたご)の様子を描いたもので、
背景には江戸湾が広がり、右の方に満月が浮かんでいる。
他の2作品と比べるととても開放的な印象。

最初に目が行くのは、中央に大きく描かれた美しい遊女。
左奥の障子には煙管を吸う客のシルエットが映っていて想像力をかきたてられる。

座敷に置いてある衝立の水墨画が物凄く緻密に描かれているのだけど
なんと誰が描いた絵なのかまでちゃんと分かっていて
左側の柱に隠れた衝立は狩野洞春美信の「雲龍図」。
右側の衝立は高崇谷の「牡丹獅子図」。


中央は『吉原の花』。
『品川の月』と『深川の雪』は掛け軸だけど、『吉原の花』は額装。
そのせいか他の2つと比べると、若干小振りな印象だけど
その画面の中に52人もの人物がひしめいている。

舞台は吉原遊郭の引手茶屋。
桜の花は咲いてるし、遊女の着物の柄も華やかだし
空には金色の雲まで浮かんでるしで、とっても賑やかな画面。
今にもガヤガヤとして楽しげな音が聴こえてきそう。
いったい何をやっているのかな?と
緑の簾の向こう側にも思わず目をこらしてしまう。

この絵にも、画中画が描かれていて
2階の左端の掛け軸が英一蝶の「布袋に唐子図」。
右側のは誰のとは書いてないけど「山水図屏風」。
そこでお酒を飲んだり踊を楽しんでいるのは武家の女性達らしく
着物には徳川家の葵の御紋と思しき紋様があり、
贅沢を禁じた寛政の改革をチクッと諷刺(^m^)。

描かれた大勢の女性達の顔立ちは、一見どれも同じように見えるけれど
よーく観てみると、美人さんとそうでもない人が
微妙に描き分けられているような気がする(^^;。


そして右側が岡田美術館が誇る『深川の雪』。
舞台は深川の料亭。
真冬だからか、女性達の着物の色は抑え気味で地味目。
この絵からも、女性の話し声が聴こえてきそうだけれども
『吉原の花』みたいなガヤガヤした感じではなくて、ここではひそひそ声。
小さな話し声が、張り詰めた冬の空気の中に聴こえてくるような、そんな感じ。
三部作の中では個人的にこれが一番好みかも。

ここでの画中画は奥の座敷の床の間に掛けられた「富士・美保図」。
これもかなり細かい。

画面中央やや左寄り、背中を向けて料理を運ぶ女性が持つお盆の上の
平目の煮付けがやけに美味しそう(笑)。
そしてその平目や、同じお盆の上の百合根やとこぶしが盛りつけられた
器の模様がこれまた細かく描き込まれていてビックリ(◎_◎)。
そう思って他の器や花瓶も単眼鏡を使って観てみると
やっぱりものすごーーーく細かく染付の絵柄が描き込まれていて
なんというか…超絶。

最初、この展示室に入ってきたときに
焼き物ばかりがずらーっと並んだ中で、この三部作が飾られていることに
ちょっと違和感を感じたのだけど、『深川の雪』に出てくる焼き物に気付くと
この器の展示も無関係ではないのだな、ということが分かる。


いやー…ずーっと観ていても全然飽きない。
でも、ずーっとここにいるわけにも行かないし
せっかく箱根まで来たので、他の展示も観ておかなくては。


というわけで、3階の展示室に移動。
ここは日本絵画の常設展示。
常設と言っても、いつも同じものが展示されているわけではない。

最初は《金屏風》のコーナー。
ここでのお気に入りは
長谷川派「網代垣・藤花図屏風」、
鈴木其一「月次扇面図屏風」(去年の『箱根で琳派』でも観たけどやっぱりイイ)。

隣の展示室に移ると今度は《水墨画》。
ここでは森狙仙の「鹿に猿図屏風」が良かった。特に左隻が好き。
屏風の折れ曲りを巧く生かしていて、右から左に移動しながら観ていくと
さっきまで見えなかった鹿が現れたり、見えてた鹿の姿が消えたりと
なんだか本当に森の中で鹿に出会ったような感覚になる。
あとは村上華岳の「春叢鳴禽図」もステキだった。

更に進んで行くと、次は《没後60年 川合玉堂と小林古径》。
どっちかっていうと、川合玉堂より小林古径が好きだなーなんて思いながら
ここはサラッと(^^;ゞ。

最後は《近現代の絵画》。
小茂田青樹の「栗に蜻蛉(とんぼ)」の、
トンボの描写が昆虫図鑑のように細密かつリアルで驚いた。


3階の展示を観終わったら、今度は4階へ。
『人物表現の広がり −土偶・埴輪から近現代の美人画まで−』というテーマ展示。
へぇ〜、岡田美術館って土偶までコレクションしてるんだー(・o・)。

土偶、埴輪、唐三彩などからスタートするが、
メインは江戸時代の日本画で
伊年印の「源氏物語図屏風」の他、
宮川長春「遊楽図巻」、伝 菱川師宣「江戸四季風俗図巻」が面白い。

江戸時代の美人画では
首から上(顔)と首から下(着物)のタッチが全然違ってて
ちょっと不思議な印象の葛飾北斎「傾城図」、
江戸の美人とは趣の異なる河鍋暁斎「美人愛猫図」が印象に残った。

近現代の美人画では、なんと言っても上村松園。
この人の描く美人画は、女性目線の美人と言ったらいいのか、
本当に美人だな〜と思わずうっとり。
「夕涼」と「汐くみ」という2点が展示されていたけれど、
特に「汐くみ」は耳たぶや指先の淡いピンクが繊細で、
細かなところにも神経が行き届いていることに感動。

最後の《逸品室》には、歌麿の肉筆画「芸妓図」。
これまた状態もよく美しい。
ずっとフランスのカンヌにあったそうなのだけど
近年日本に里帰りしたのだとか。
いったいいくらで買ったんだ???…岡田美術館、オソルベシ。

この先、5階では仏教美術の展示があるのだけど
ここも今回は(というか「今回も」)スルー。
いつかちゃんと観て帰らねば…と思いつつ
いつもスルーしてしまうのだった(^o^;。



いやぁ〜、満足満足大いに満足。
歌麿の『雪月花』(月は複製画だけれども)観ておいて良かったー(*^^*)。
それ以外の展示も美しく、眼福眼福大いに眼福。


外に出て、入口を別アングルでもう1枚。
03_entrance.jpg

今回は足湯カフェや開化亭には寄らず、
ミュージアムショップでお手頃価格の図録と
上村松園「汐くみ」のポストカードだけ買って
岡田美術館を後にした。
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お昼は小田原の駅弁にしよーっとo(^-^)o。
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きゅう

大変ご無沙汰しています。

岡田美術館は雑誌やネットで見るたびに興味を引くのですがいつも通り過ぎて東京まで行ってしまいます。

先日27日に東博の「運慶」に行ってきました。本当は展示内容からするともう少しあとに行った方が良いかもしれないのですが何を血迷ったか京博の「国宝」の4枚セット券を買ってしまったので日程的に「今しかない」ということで。
思ったほど並ぶこともなくちょっと拍子抜けでしたが、内容は非常に満足で結局4時間ほど中にいました(いすぎ)。
今までなんども見ている龍燈鬼ですが龍の目も玉眼であることに初めて気が付いたり、「鳥獣人物戯画と高山寺」でみた子犬、神鹿、善妙神立像に再会しました。

もちろん春の「快慶・阿修羅・運慶」スタンプラリーもコンプし、運慶学園の校章シールももらい、セット券を買っていたので龍燈鬼フィギュアもゲットしました。

余談ですが夏には大阪の西大寺展も行き、その足で国立国際美術館でバベルも見てきました(もちろん名古屋ツアーファイナルも参加しました)。
by きゅう (2017-09-29 02:55) 

梅屋千年堂

>きゅうさん
お久しぶりですね。
きゅうさんもアクティブにあちこち行ってらっしゃってお元気そうでなによりです。
「運慶」にも早速行ってきたのですね。
アタシは次の休みに行こうと思っています。
ちょっと予習しておこうと、さきほど運慶展公式サイトの
「運慶学園入試」を受けてみたのですが9問中4問しか正答できませんでした_| ̄|◯。
(一応それでも「よくできました」ではありましたが)。
まだまだ修行が足りません。

ところできゅうさんは「週刊 ニッポンの国宝100」はご覧になっていますか?。
毎号毎号買わずにはいられないラインナップで
これはもう全号コンプリートしてしまいそうな勢いです。

by 梅屋千年堂 (2017-09-30 22:32) 

きゅう

最近は本屋さんをのぞくと「運慶」「国宝」「北斎」のいずれかの文字が表紙に踊る本ばかりなのでつい買ってしまい、あとから見ると「31軀といわれているのだから同じ写真ばかりではないか…」の繰り返しです。

「ニッポンの国宝100」はすでに全種類のラインナップが発表されているのですが毎号買ってしまいそうですね。普通は途中で「なんだこりゃ」な号が出てきて気分が萎えていくのですが最後まで続きそうです。
by きゅう (2017-10-01 00:58) 

おかん

天気が良い日で写真もとても綺麗です。中身も素晴らしいのですね。箱根、遠くて行けないのでこちらをかぶりついて読んでいたら、栃木の善野屋?、知らなかったので調べてみました。栃木市にこんな立派な方がいたのですね。
栃木市は「蔵のまち」として観光に力を入れていて舟に乗ったりもできます。江戸時代運河で商いされてお金持ちになった豪商(善野屋)の土蔵が凄いらしいです・・、ここは行ってみようと思います。
おかげで勉強になりました、ありがとうございます。
by おかん (2017-10-01 05:00) 

梅屋千年堂

>きゅうさん
運慶、国宝、北斎…多いですね。
特に運慶、北斎はNHKでもいろいろ特集番組があったりするので
見逃さないように録画予約しておいたりするのですが
ふと気が付くとハードディスクの容量もいっぱいになっていたりして
もう、家中のテレビとブルーレイレコーダ総動員です(◎_◎)。

あべのハルカス美術館の北斎展も
行きたくて行きたくて仕方がないのですが
残念ながらその期間中に関西方面には行かれそうにないのでした…(T^T)。




>おかんさん
いや〜ワタクシも善野家がこのような立派な豪商だとは知りませんでした。
おたすけ蔵…渋いですね。
こちらこそ勉強になりました(*^^*)。

箱根美術館はおかんさんのお住まいからは遠いかも知れませんが
いろんな意味で凄いですよ。
機会があったら是非、温泉旅行なども兼ねていかがでしょうか。
(別にアタシは箱根の観光大使でも回し者でもありませんが笑)。

by 梅屋千年堂 (2017-10-02 01:03) 

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