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特別展 本阿弥光悦の大宇宙 [EXHIBITION]

1月17日にトーハクで観てきた展覧会。

(まとめるのに時間がかかってしまった…)

本阿弥光悦(1588〜1637)は、安土桃山〜江戸初期の芸術家。
この時代に「芸術家」という言い方はなかったと思うけど
漆芸・書・陶芸…といろいろやる人なので、とりあえず芸術家(笑)。

これまで様々な展覧会で本阿弥光悦の作品はちょいちょい観てきた。
琳派であったり、茶の湯、樂家、
寛永文化のなんちゃらとか、料紙のどうこうとか…。
けれども本阿弥光悦に特化した展示はアタシ的に初めてで、
どんな展覧会なのか楽しみにしていた。
(大好きな『鶴下絵三十六歌仙和歌巻』も観られるし♪)。


23日から同じくトーハクで始まる『特別展 中尊寺金堂』とのセット券を
オンラインで購入し、昼過ぎ頃に会場到着。
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チケットを提示して展示室内に入ると「えっ?もう?!」という感じで
いきなり国宝「舟橋蒔絵硯箱」が目に飛び込んできた。

四方をガラスで囲まれた展示ケースに入れられているので
様々な方向から鑑賞出来るのが嬉しい。
しかも場内はほどほどの混み具合(むしろ空いてる?)で
ぐるぐるぐるぐる何周しても大丈夫な感じ。
意図的なのかそうでないのかはわからないけど
真横から観てみると、こんもりとした蓋の膨らみの頂点は
中心から少しズレているのが分かる。
その膨らんだ蓋には波の文様と小舟が蒔絵で表現されていて
そのど真ん中を鉛の橋が大胆に貫いている。
硯箱の蓋がこんなに膨らんでいる必要はないし、
鉛の板なんか張り付けたら重たいに決まっている。
実用性度外視ってところが、なんかこう…羽根の生えたギターみたい(笑)。


国宝を堪能したら、本題へ。

《第1章 本阿弥家の家職と法華経信仰 −光悦芸術の源泉》
まずは光悦の孫・本阿弥光甫作と伝わる『本阿弥光悦坐像』が登場。
かなりマンガチックにデフォルメされたその顔は
めちゃめちゃ人の良さそうなお爺ちゃん。
「異風者」で「一生涯へつらい候事至てきらひの人」
=媚びへつらうことを嫌う人だったそうだけど、
この坐像の人相からは気難しそうなイメージは浮かんでこない。

本阿弥家は刀剣の研磨や鑑定を家業とし、
ここではその家業にまつわる展示がメイン。
国宝の刀剣が4振も展示されていて、刀剣好きの人にとっては
おそらく眼福モノなのだろうけど、アタシにはさっぱり…(^^;。

ここで印象深かったのは、光悦が揮毫したというお寺の扁額。
特に千葉にある中山法華経寺の扁額「正中山」と「妙法花経寺」はかなりの迫力。
光悦は日蓮法華宗の熱心な信徒で、日蓮の「立正安国論」を
光悦が写した書も展示されていたのだけど、
楷書と行書と草書が入り交じっていて、ちょっと不思議。
一見思いつきで書体を変えているように思えなくもないけれど
墨の濃さや筆の太さも変えてる???と感じられる部分もあり
実は計算し尽くされているのか?とも思えてきた。


《第2章 謡本と光悦蒔絵 −炸裂する言葉とかたち》
ここで最初に登場するのが「桜山吹屏風」。
桜や山吹が描かれた屏風に、和歌を書いた色紙を貼り付けたもの。
色紙は本阿弥光悦、屏風は俵屋宗達ってだけで、もう有り難い。
トーハク所蔵のものだけど、初めて観たかも。

この章で展示されているのは大きく分けて2つ。
1つめは謡本(うたいぼん)。
能の詞章をだけを謡う芸事のことを謡曲というのだけど
謡本は、その謡曲の「歌本」のようなもの(今どき「歌本」なんて死語?^^;)。
紺地の表紙に金泥で繊細な植物が描かれた謡本「元和卯月本」が物凄く美しい。

更に、表紙に雲母刷りを施し光悦流の書体で文字を書いたものを
「光悦謡本」と呼ぶらしいのだけど、これもまたとっても美しい。
特に題箋を宗達、書を光悦が書いたと伝わる「百番本謡本」が凄くイイ。
題箋とはその謡本のタイトルを記した短冊状の小さな紙で
それが謡本の表紙に貼り付けられているわけなのだけど、
その小さな紙の中にも宗達らしさが溢れていて、ちょっと感動。

2つめは冒頭の「舟橋蒔絵硯箱」に通ずる漆工作品。
「光悦蒔絵」と呼ばれる、光悦自身が制作した、
あるいは光悦が関与したと考えられるものが展示されている。
ここでは光悦自身が制作した「花唐草文螺鈿経箱」という、
お経を入れてお寺に納めるための箱が出色。
本阿弥家の菩提寺である京都・本法寺に納めるために作ったそうで
その手の込みようから、光悦の信心が伝わってくるようだった。


《第3章 光悦の筆線と字姿 −二次元空間の妙技》
今日はこれを観るためにここへやってきたと言っても過言ではない。
大好きな『鶴下絵三十六歌仙和歌巻』が登場。
俵屋宗達が下絵を描き、光悦が書をしたためた珠玉の和歌巻。
なぜこれが国宝じゃないんだ!と、観るたびにアタシは思う。

初めて観たのは2015年に京都国立博物館で開催された『琳派 京を彩る』。
どうしてもこの和歌巻を観たくて、わざわざ京都まで言ったのだ。

その時も全長13.56mをダーッと全部広げた状態での展示だった。
今回ももちろん全巻一挙展示。
2015年に京都で観た時よりも、ほんの少し好いていて
展示ケースの前にも、自分の気持ちにも余裕があることもあって
なんだかとても落ち着いた気持ちで鑑賞することができた。

光悦の美しい書を1行1行辿りつつ
時折端から端まで全体を見渡して俯瞰してみる。
夥しい数の鶴が飛び立って、宙を舞い、着地する様が
アニメーションの様に展開する。
宗達が描いた鶴の上に、絶妙なバランスで配された光悦の文字。
光悦の文字は肥痩に富み、文脈と関係ないところで改行していて
なんというか、文字自体が絵画の一部という感じ。
読めないんだけど、やたらと美しいことは分かる。
う〜ん…至福眼福。

この和歌巻を観るたびに
「こういのがちゃんと読めるようになりたいなぁ」と思い
そのたびにちょっと勉強しては飽きる…の繰り返し(笑)。
今は「くずし字学習アプリ」なんてのも複数あるから
スキマ時間には何の役にも立たないようなゲームよりも
こっちをやっていこうかな(などと言ってみる)。

この章では、もうひとつ素晴らしい展示があって
それは『蓮下絵百人一首和歌巻断簡』。
この和歌巻は、元々は小倉百人一首100首を完備する
全長20mに及ぶ長大な作品だったのだけど
悲しいことに60首分が関東大震災で焼失。
残った部分は切断され、断簡となって各所に分蔵されているとのこと。
25mって…『鶴下絵…』よりも更に長い。
完全な形で残っていたらそれこそ国宝だったかも???。

こちらの下絵も俵屋宗達が描いたと言われていて
蓮の花が蕾をつけて、開花し、枯れていくまでが描かれている。
その上にはこれまた端麗かつ自由な光悦の書。
ちょっと調べてみたところ、この断簡を所蔵しているのは
東京国立博物館、メナード美術館、メトロポリタン美術館、
サントリー美術館、樂美術館、出光美術館…。
他にもいろんなところに散らばっているのだろうけど
現存する断簡を一つの展示室に全部集めて
順番に展示する展覧会がいつか実現したら素敵だろうなぁ。

晩年、光悦は中風(脳卒中)を患う。
(そういえば北斎も中風に罹っていたっけ)。
能書、寛永の三筆と言われた光悦が、
自由に手を動かすことが出来ず、思うように筆を運べなくなったことは
さぞかし悲しくイライラしただろう…と思ったけれど
でもその頃の書をじっと観察していると、むしろそれを逆手に取って
枯れた文字の〈味〉を生み出しているようにも思えた。


《第4章 光悦茶碗 −土の刀剣》
最終章は、光悦が手掛けた茶碗の数々。
元和元年(1615年)、徳川家康から鷹峯の地を拝領し
光悦村を築いた光悦は、この頃から樂家二代・常慶、三代・道入と交流し
様々な茶碗を制作した。

もともと樂焼が大好きなので、
光悦の茶碗も当然「カッコイイなぁ!」と思うものが多い。
どれもこれもイイんだけど
『赤楽茶碗 銘 毘沙門堂』(←2017年の『茶の湯』展でも感動してた)
『白楽茶碗 銘 冠雪』
『赤楽茶碗 銘 加賀』
今回はこのあたりが琴線に触れた。
あとは少し趣の異なるもので『赤楽 兎文香合』も良かった。


最後はお約束の特設ショップ。
「桜山吹屏風」のポストカードと、
「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」のマステ。
そして「舟橋蒔絵硯箱」のそえぶみ箋。
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「舟橋蒔絵硯箱」のマスコット(ぬいぐるみ)キーホルダーにも
かーなーり惹かれたのだけど、
「いやっ、これは絶対に《いらんもん》だ」
と自分に言い聞かせ、グッと堪えて我慢した。

「鶴下絵…」のマステは2020年の『特別展 桃山』を観た時に
「なぜこの巻物のマステを作らないんだっ?!」と
勝手に息巻いていたので、今回マステになっているのを見てとっても嬉しかった。
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↑マステ帖に貼ってみた図。
このように全巻網羅されているのだけど、残念なことがひとつだけ。
それは、テープが絵巻のお尻から頭に向かって巻かれていること(-_-;。
お尻の方から始まる和歌巻…これがなにやらものすごくキモチワルイ(笑)。


そして帰宅後、どうしても欲しくなってポチってしまったのがこれ。
京都・便利堂による『縮小巻物 鶴下絵和歌巻』。
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紙幅11.0cmのミニ巻物…とはいえ全長445.9cm。
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すごくよく出来ていて、少しずつ広げて眺めているだけでニヤけてしまう。
¥5,940と安くはないけど、この完成度でこの値段は良心的。
時々これを広げて、くずし字と和歌を勉強しよう。
そして今度この和歌巻が展示される展覧会が開催されたときには
書かれている和歌を全部読めるようにしておこう(壮大すぎる目標)。
コメント(5) 

コメント 5

YAYOI

マスコットキーホルダー可愛い!
手持ちの柄有りマステを見たら、左から使う前提で絵柄の上下を決めてるのかな?
絵巻って右から始まるものだから、左からって私も違和感を感じます(^_^;)
by YAYOI (2024-02-03 20:32) 

梅屋千年堂

>YAYOIさん
ちょっとグッときちゃいますでしょ?マスコットキーホルダー。
売場でかなり逡巡しましたが、誘惑に打ち勝ちました!。
でも、もしも舟橋蒔絵硯箱の実物大クッションなんてのがあったら
買ってしまっていたかも知れません。
(曜変天目のほぼ実物大ぬいぐるみを買ってしまったアタシだけに)。

アタシの手持ちのマステもみんな左から使うものでした。
考えてみれば、右利きの場合、梱包用のテープなどは、
切り口の端を左手に持ち、巻いてる方を右手に持って使いますもんね。
でもアタシがマステをカットする時は、
切り口が右手、巻が左手なんですよねぇ…
(だからマステの柄が自分から見ていつも逆向きなのです)。
って、もしかしてこれってアタシだけ???。

by 梅屋千年堂 (2024-02-03 22:14) 

おかん

開催二日目は早かったですね~。
国宝の硯箱、じっくり見られてよかったですね。
お土産の『そえぶみ箋』かわいい!
私も早く行きたくて長女と日程調整中です。
by おかん (2024-02-04 18:31) 

YAYOI

>考えてみれば、右利きの場合、梱包用のテープなどは、切り口の端を左手に持ち、巻いてる方を右手に持って使いますもんね。

え!そうなんですか?
私は右利きですが、マステもガムテープも左手に持って使ってます。
いま密林ショップにあるコクヨのマステカッター「カルカッタ」の商品紹介写真を見たら、右手に持つ写真が掲載されてました。
そうか…私も梅屋さんも少数派だったんですね (^_^;)
by YAYOI (2024-02-04 18:46) 

梅屋千年堂

>おかんさん
舟橋蒔絵硯箱も、鶴下絵和歌巻も、赤楽茶碗毘沙門堂も
じっくり堪能できて、佳き展覧会でした。
グッズも面白いものがいろいろありましたよ。
次にトーハクへ行くのは『特別展 中尊寺金堂』の予定ですが
その時は少し時間に余裕を持って出掛けて
レストランゆりの木で特別展限定メニューを食べたいな、と思っています。




>YAYOIさん
「段ボール テープ 貼り方」で画像検索すると
右手にテープを持っているものが多いようです。
「マステ 切る」で検索すると…やはり〈右手にテープ〉が多め?。
でもテープカッターにセットしたテープを切るときって
左手にテープ(カッター)を持ち、
右手でテープを引っぱってカットするのが普通だと思っていたのですが…
実はあんまり利き手とかは関係ないのかな???。
今度いろんな人に聞いてみたいと思います(笑)。

by 梅屋千年堂 (2024-02-04 21:32) 

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