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ルーベンス展 −バロックの誕生 [EXHIBITION]

アタシが持つルーベンスの作品のイメージは…

バターをたっぷり使ったフレンチ、
あるいはラーメンで言うならコテコテの豚骨…
一見「うわぁ〜…( ̄△ ̄;)」と思うけれど
食べてみると美味しいし、やっぱり好きだなぁ…そんな感じ(笑)。

そんな感じなので、
ルーベンス展を他の展覧会とハシゴするのは絶対無理!。

というわけで、
11月28日午前中の(アタシにしては)割と早めの時間から
上野・国立西洋美術館。
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なんだか妙に青空に映える看板。


日本人には『フランダースの犬』でお馴染みの
ペーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640)。
そうしたわけでベルギーはアントウェルペンの画家というイメージが強いが
生まれたのはドイツのジーゲン。
アントウェルペンでのプロテスタント迫害から逃れるために
両親がドイツに亡命していたため。
父親の死後、12歳の時に母・兄弟と共にアントウェルペンに戻り
絵の修行を始め、21歳の若さで親方として登録される。

1600年にイタリアへ渡り、1608年まで滞在(途中中抜けあり)。
そこで古代美術やルネサンス期の美術を吸収し、
研鑽を積んで自身の芸術を発展させた。

ルーベンスとイタリアとの関わりに焦点を当てて
ルーベンスをイタリアの画家として紹介する展覧会…とのこと。


展覧会は7部構成。

最初の《I. ルーベンスの世界》では
ルーベンスの自画像の他、いくつかの肖像画が並ぶ。
ここで、小さな肖像画と再会。
『クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像』。
ルーベンスの愛娘クララが5歳の時の肖像画である。
どこで観ているのかというと、
2012年の『リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝展』。
とても利発そうで、それでいて可愛いクララの肖像。
ルーベンスの愛情が溢れんばかりに伝わってくるのだが、
このクララは12歳で夭折してしまう。
その時のルーベンスの悲しみはいかばかりかと想像すると胸が苦しい。

ルーベンスが描くこどもはぷくぷくしてるせいかどれも可愛くて
『幼児イエスと洗礼者聖ヨハネ』、
これなんかもパッと見「あらカワイイ!」と思うのだけど
よーく見ると、やっぱりイエスと洗礼者ヨハネだけあって
表情は妙に大人びている。


《II. 過去の伝統》では、古代彫刻やルネサンスなど
先行する時代の作品を研究・模写した作品を紹介。

多くの芸術家を魅了してきたバチカン美術館にある『ラオコーン像』。
ルーベンスもご多分に漏れず、この彫刻の素描を残している。
当たり前なんだけど、巧い。
ルーベンスがこうした大理石像を模写する際には
「石が石のように見えてはいけない」と言って
生きた人間の肌に見えるように描いたのだそう。

『髭を生やした男の頭部』は、巻き毛の老人を描いたもの。
直感的に、これいいな、好きだなと思った。
すごくリアルな巻き毛の表現がいいんだよね〜と。
帰宅して、自分のブログの過去記事をチェックしてみたら
2013年のルーベンス展でも、この『髭を生やした男の頭部』を
お気に入りの作品として挙げていた(すっかり忘れていたけれど^o^;)。

『セネカの死』はルーベンスと工房作。
顔だけはルーベンスが描いて、その他は工房の弟子達が描いたとのこと。
そう言われて見ると、確かに顔だけがすごく描き込まれているというか
巧すぎて浮いているというか…(笑)。


《III. 英雄としての聖人たち −宗教画とバロック》
階下に降りたところにある広い展示室に入ると、
【ザ・ルーベンス】な大作がダダーン!!!。
サイズの大きな『法悦のマグダラのマリア』と『聖アンデレの殉教』が
向かい合わせに展示され、その左右の壁に中くらいのサイズの作品が並んで
圧倒的な迫力。これぞルーベンスの真骨頂!という感じ。

個人的に惹かれたのが『アベルの死』。
元は聖ヨハネの斬首を描いた作品だったらしいが
後年、他の画家によって頭部や犬が描き込まれて主題が変わったらしい。
(そんなのありか?と思うけれども…^^;)。
頭を手前に、脚を向こうに向けて倒れる人物の描き方が巧みで、奥行き感が凄い。

『キリスト哀悼』でも、手前に投げ出されたキリストの足が
短縮法で描かれて、奥行き感を出している。
この主題は短縮法で描かれていることが多い気がする
2013年のルーベンス展やリヒテンシュタイン展で観た
別の『キリスト哀悼』も、キリストの足が手前に投げ出されていた。

2つ展示されている『キリスト哀悼』のうち
ボルゲーゼ美術館蔵の方のキリストのポーズは
ベルヴェデーレのトルソを参考にしているらしい。
展示室にはこのベルヴェデーレのトルソのレプリカも置いてあるので
それとルーベンスの作品を見比べてみるのも面白い。

それにしても、ベルヴェデーレのトルソというやつは
頭もない、両腕もない、足も膝から下がない…。
この大理石像をミケランジェロは大いに称賛したという。
ミケランジェロやルーベンス以外にも
何故かこの彫刻は多くの芸術家に影響を与えている。
この不完全さが想像力を掻き立てるのだろうか、などと思いつつ
ベルヴェデーレのトルソの周りをぐるぐる3周くらい回った気がする。

この展示室の最後の壁に掛けられているのが『聖アンデレの殉教』。
306cm × 216cmという大きな作品。
X型の十字架に掛けられた聖アンデレの表情は
先述の『ラオコーン像』を参考にしているらしい。
十字架の下では人々がややオーバーとも思える身振り手振りで
なにやら話している様子で、まるで芝居の一場面を見ているような気分になる。


《IV. 神話の力 1 −ヘラクレスと男性ヌード》
ここではルーベンスが描いた男性ヌードについて
主にヘラクレスに焦点を当てて紹介している。

『ヘスペリデスの園で龍と闘うヘラクレス』は
ヘラクレスが棍棒でドラゴンをやっつけている場面なのだけど
人物=ヘラクレスはルーベンスが、
ドラゴンは動物画を得意とするフランス・スネイデルスが描いている。
このようにそれぞれの得意分野を分業で描くことは
当時は珍しいことではないのだけど、ルーベンス曰く
「スネイデルスは死んだ動物を描かせたら素晴らしいが
 生きた動物は自分の方が巧い」
などと言ったとか。
スネイデルスを褒めてるんだか貶してるんだか(笑)。

もうひとつ印象的だったのが『ヘスペリデスの園のヘラクレス』。
この絵を遠目に観たとき、ヘラクレスの幅広で筋肉質の体が
システィーナ礼拝堂の『最後の審判』のキリストみたいだな、と思った。
絶対そこに影響受けてるでしょ!参考にしてるでしょ!と思ったが…
参考にしたのは『ファルネーゼのヘラクレス』という彫刻らしい。
ハズレ。残念(^^;。


《V. 神話の力 2 −ヴィーナスと女性ヌード》
今度は女性ヌード。

ここまで観てくると、ルーベンスは古代ローマの彫刻や
ティツィアーノなどのルネサンス期の作品を、
数多く参考にして自分の作品を制作していたことがわかる。

古代ローマ彫刻の身体表現、
ティツィアーノなどヴェネツィアルネサンスの豊かな色彩、
カラヴァッジョに見られる舞台照明のような強い光…
ルーベンスに限らず、いつの時代においても
新しい芸術とは、常に先人たちの技術を研究・参考し、
それを自分の物として取り入れ、更に超越して生まれるものなんだねぇ…
なんてことを考えずにはいられなかった。


《VI. 絵筆の熱狂》
ここで目を惹いたのは
ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵の『パエトンの墜落』。
まずは想像したよりもずっと小さいことに驚いた。
こちらの作品も映画や舞台の一場面を観ているようにドラマチック。
大勢の人物が画面上でもんどり打ってるのも
ルーベンスの得意技であり真骨頂。


最後は《VII. 寓意と寓意的説話》。
神話画の中に寓意的なものも盛り込んだ作品を描いたルーベンス。
その意図するところは高い知識を擁する人達でなければ理解できない。
ということで、ルーベンスの知識・教養がいかに高いものだったかを示す展示。

例えば『ヴィーナス、マルスとキューピッド』。
甲冑を脱いで寛いだ雰囲気の軍神マルスが
ヴィーナスとキューピッドの傍らに寄り添っている場面なのだけど
ここには愛によって武装が解除され
平和が保たれているという寓意が込められているとのこと。なるほど〜。

そして展覧会の最後を飾り、強烈な印象を放つのが
『エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち』。
3人の美しい娘たちが、籠の中の赤ん坊を囲んで
なにやら言葉を交わしている様子…。

この絵に描かれたお話の大筋はこう。

女神アテナに迫った鍛冶神ヘパイストス。
だが、アテナに拒まれ彼女の足に射精。
アテナが精液を羊毛で拭き取り大地に捨てると
大地(ガイア)は身籠もってエリクトニウスが生まれた。

アテナはこの子を不死身にしようと考えて
大蛇とともに籠に入れてアテナイ王ケクロプスの3人の娘たちに預ける。
「決して中を見ないように」というアテナの言いつけを破り
アグラロウス(とヘルセー)が籠を開けて中を見てしまう。
籠の中には下半身が蛇と化した赤ん坊が…!。

これが、まさに描かれているその場面。

その後、アテナの怒りを買った娘たちは
赤ん坊と一緒に籠の中にいた蛇に襲われて殺されたとも、
発狂させられて海に身を投げたとも…。

そんな恐ろしい結末が待ち受けているにもかかわらず
そして籠の中から下半身が蛇という異形の赤ん坊が出てきたにもかかわらず
意外に動揺していない娘たち(^^;。
後ろにいるおばあちゃんの眼差しもなんだか優しげだ。

ルーベンスは古代文学にも精通していたという。
ルーベンスが描いたドラマチックな宗教画や神話画を観ていると
その作品の主題となった物語の詳細が知りたくなる。
まるでクライマックスを断片的に提示される
映画の予告編でも観ているような感じ。
この絵に描かれているのはどんな物語なんだろう?。
続きはどうなるの?、気になる〜〜〜!!!。
そう思わずにはいられないルーベンスの作品なのだ。
だから観ていてなんだかワクワクドキドキしちゃうんだよね(^^;。


大きな工房を構え、非常に多くの作品を残したルーベンス。
仕事人間のように思えけれども、非常に規則正しい生活をし、
17時には仕事を終えて散歩をして、
家族との夕食をとても楽しみにしていたらしい。
外国語も堪能で、画家としてのみならず外交官としても活躍。
よき父でもあり、デキるビジネスマンのお手本のような人物だったようだ。

絵描きの人生もいろいろだなぁとつくづく思う。



最後は恒例自分土産。
まずはヴィターメールとのコラボ菓子。
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マカダミア・ショコラ。
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さすがヴィタメール…。ウマイ。


そしてポストカードとA5クリアファイル。
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クリアファイルは『フランダースの犬』のネロとパトラッシュが
聖母大聖堂の『キリスト降架』を見上げているデザイン。
「ああ、とうとうぼくは見たんだ…」のあの場面(う〜、泣ける!)。

そして前回(2013年)のルーベンス展では売ってなかった
『キリスト降架』『キリスト昇架』のポストカードもついでに。


…これでとりあえず年内に観ておきたかった展覧会はすべてクリア。
(まだ幸ちゃんの書写真展があるけれど)。
今年もいい展覧会が多かった。
来年はウィーンイヤーかな…。
目下のところ、クリムト展が楽しみ(*^^*)。




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《オマケ》
今日買った本と雑誌。

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パラパラッと見ただけでも「プッ( ̄m ̄)」と笑える。



王子のインタビュー掲載。
ゴジラギターやTAKAMIY JANEの詳細も…。

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  • メディア: 雑誌


そしてインタビューの最後には素敵なお知らせが!(≧▽≦)。
楽しみすぎる!。
コメント(8) 

コメント 8

ナッキー

ルーベンス展行かれたんですね。
私も観に行こうと思っています。

20年くらい前でしょうか、マニアに遊びに行った時たまたま私と友達しか居なく、何故この話になったのか忘れましたがキリスト降架の絵の話をしていました。
「いつかアントワープに観に行きたい」と私が言ったら、その話を聞いていたスタッフさんが、「私も事務所のスタッフの子と“あの絵を観に行きたいんだ”と話していたら、それを聞いていた高見沢さんが“あの絵は現地で観た方が絶対良いよ”と言ってたんですよ」と教えてくれました。
死ぬまでにアントワープに行ってあの絵を見たいし、イタリアにも行きたいし、もう一度ベルリンに行きたいです。
その為には健康でいなければだし、仕事を頑張ってお金貯めないと(^-^;


by ナッキー (2018-12-02 00:20) 

梅屋千年堂

>ナッキーさん
確か『キリスト降架』にインスパイアされて
曲が出来たと王子が何かで言っていましたよね。
(曲は“LIBERTY BELL”でしたでしょうか…?)。

アタシも行ってみたいです、アントワープ聖母大聖堂。
そしてこう言うのです。

「ああ、とうとう観たんだ。
 マリア様、アタシはもう思い残すことはありません(…ウソだけど)」

でもその前にやっぱるイタリア(フィレンツェ)に行かなくちゃです。

by 梅屋千年堂 (2018-12-02 00:35) 

ポチヒコ

そうですよね。
ルーベンスって聞いて思い出すのは『フランダースの犬』の最終回。
聖母大聖堂の『キリスト降架』をネロが見上げてパトラッシュに
寄り添いながらあの名セリフ。
「ああ、とうとうぼくは見たんだ…」
と言った後
「何だか眠くなってきた。」(だったっけ?)
って天使達に連れられて天に召されていくシーンです。
当時はテレビ見ながら泣いた泣いた。(まだ純粋でした。笑)

お土産のクリアファイル『フランダースの犬』のネロとパトラッシュが
聖母大聖堂の『キリスト降架』を見上げているデザイン。
いいなぁ~。
観覧される方もフランダースの犬見ている世代も多いでしょうに。
主催者も憎い事しますね。


by ポチヒコ (2018-12-02 09:50) 

梅屋千年堂

>ポチヒコさん
日本においてルーベンスと言えば「フランダースの犬」…
と言っても過言ではないかも知れませんね。
改めて調べてみたら
「ああマリア様、これだけでぼくはもうなんにもいりません」
「僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ…パトラッシュ」
でした。
ネロが天に昇っていく時の“主よ御許に近づかん”がまた泣かせるんですよー(T^T)。
(“タイタニック”で、バンドのメンバーが最後にこの曲を演奏する場面でも
 もれなく涙が止まらなくなるアタシです^^;ゞ)。

ルーベンス展、クリアファイル以外にも
「フランダースの犬」グッズを取り揃えてございます…。
(ミントタブレットやリップクリーム缶、てぬぐい等…)

by 梅屋千年堂 (2018-12-02 21:37) 

サンフランシスコ人.

来年、サンフランシスコ美術館(Fine Arts Museums of San Francisco)でルーベンス展があります...

http://legionofhonor.famsf.org/exhibitions/early-rubens

http://photos.google.com/share/AF1QipPwEh6jmsmSngNiqiwNzINsDgp20BwK1briRoIrEjcJfs4MjJ9F_m3Olhmvg4K_QQ?key=VVREWUI2LWtFck1CVElxUl9zbU16ejRIakZxcWd3
by サンフランシスコ人. (2018-12-04 07:47) 

梅屋千年堂

>サンフランシスコ人.さん
いつも情報ありがとうございます。
初期のルーベンスに焦点を当てた展覧会なのですね。

by 梅屋千年堂 (2018-12-05 00:29) 

サンフランシスコ人

開催地はサンフランシスコとトロントのみです....

http://www.famsf.org/press-room/rubens-unique-survey-early-paintings-premiere-san-francisco
by サンフランシスコ人 (2018-12-07 08:05) 

梅屋千年堂

>サンフランシスコ人さん
トロント…カナダですね。
カナダも一度訪れてみたい国のひとつです。
(その前に行きたい国がまだまだたくさんありますが…)。

by 梅屋千年堂 (2018-12-09 01:04) 

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