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エリック・カール展 [EXHIBITION]

大人が観ても、なんだかワクワクしてくる展覧会。

エリック・カールは、1929年ニューヨーク生まれの絵本作家。
6歳でドイツに移り住み、23歳で再びニューヨークに渡り
グラフィック・デザイナーを経て、1960年代後半から絵本作家として活動。
『はらぺこあおむし』の作者と言えば、誰もが「あぁ!」と思うだろう。

はらぺこあおむし エリック=カール作

はらぺこあおむし エリック=カール作

  • 作者: エリック=カール
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2010/08/23
  • メディア: ハードカバー


別段、このお話が好きというわけではないし
本当のことを言うとちゃんと読んだこともないのだけど
8年前に観た展覧会がとっても素敵だったのが忘れられず
あ〜、またやるんだ!じゃぁ観に行かなくちゃ!というわけで
世田谷美術館まで行ってきた。
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まずは、併設レストランで腹拵えして館内へ。

展示は二部構成。
Part Iは『エリック・カールの世界』と題して
エリック・カールの絵本作品の原画を、「動物たちと自然」「旅」
「昔話とファンタジー」「家族」という4つのテーマに分けて展示している。

どれも色彩豊かでかわいくて美しい。
エリック・カールの作品には「きれいないろ」しか存在しない。

特に動物を題材にした作品は、どれもシンプルな線と面で構成されているのに
それぞれの動物の特徴がリアルに表現されていること。
16歳でシュトゥットガルト州立芸術アカデミーに早期入学し
きちんとした絵画やデザインの教育を受けているので
エリック・カールの観察眼、デッサン力、デザインのセンスは確かなものなのだ。

エリック・カールの凄いところは、その作品の殆どが
自ら彩色したカラフルな薄紙を切り貼りしたコラージュであることだ。
大きな薄紙に予め彩色を施したものが大量にストックしてあって
その中から、作品に適したものを選んでは切り貼りしていく、という手法。

ティッシューと呼ばれるこの薄紙は、ベタっと単色で塗りつぶしたものもあれば
筆や刷毛の跡がムラとなって残るもの、微妙なグラデーションになっているもの、
無造作な縞模様や水玉模様になっているもの、
絵の具を塗ったあとから何か固いものでわざとひっかき傷を作ったようなものまで様々。
エリック・カールの作品は、この「素材」を作るところから始まっているのだ。

そんな中で、個人的に心惹かれたのが夜空や海の色に使われている濃い青色。
『だんまり こおろぎ』という絵本の中の
「ぶ ぶ ぶ ぶ ぶーん…こんばんは! ほしぞら せなかに かが ぶんぶん
 おやすみまえのひとおどりです」の夜の青や
『はらぺこあおむし』の
「おや、はっぱのうえに ちっちゃな たまご。
 おつきさまが、そらから みて いいました」の月夜の青、
『10この ちいさな おもちゃの あひる』の
「やっと あらしが やんだあと 10この あひるは
 ぷかんぷかんと なみのうえ」の海の青、
これらの青色がホンットに美しくて、観ているだけで心が落ち着く。

この青色を家に連れて帰りたくて、図録買っちゃおうかな〜と思ったのだけど
図録=印刷物になってしまうと、残念ながらこの鮮やかさがいまひとつ再現出来ておらず
「ウーン…ナンカチガウ(-_-;」という感じだったので、図録購入は却下。
やはりあの原画の透明感を印刷で忠実に再現するのは
なかなか難しいことなのかも。



Part IIは『エリック・カールの物語』。
ここでは、ニューヨークでのグラフィック・デザイナーとしての初期作品や
エリック・カールが影響を受けた画家の作品、交流のあるレオ・レオニの作品、
舞台の衣装デザイン画や、近年の立体作品などが紹介され、
絵本作家として、そしてアーティストとしてのエリック・カールを
より深く掘り下げる展示になっている。
絵本の原画も、Part Iと比べると
ちょっと大人っぽい抽象的なものが多い。


エリック・カールの青春時代のドイツはナチス政権下。
いわゆる前衛芸術は「退廃芸術」として禁止・弾圧されていたのだけど
エリック・カールの才能に気付いた美術教師のフリードリヒ・クラウス先生が
パウル・クレー、ピカソ、カンディンスキー、フランツ・マルク、
アンリ・マティスなどの複製画をこっそりと見せてくれたそうで
このことがエリック・カールに多大な影響を与えたのだそうだ。

それと関連して、この展覧会ではエリック・カールが特に影響を受けた
フランツ・マルク、そしてマティスの作品も展示されている。


興味深く、かつ新鮮なのはエリック・カールの初期作品。
リノカットという技法で刷られた、小ぶりなモノクロの版画作品が並ぶ。
描いているのは都会の風景だったりするが、
切り絵風の画風には、今に繋がるものが既に感じられる。


またエリック・カールは日本との関わりも深い。
それは単に『はらぺこあおむし』が日本で人気があるというだけではないのだ。

『はらぺこあおむし』を出版することになった際、
当時のアメリカでは、ページの幅が何種類もあったり、
ページに穴を開ける加工をしたりという特殊で複雑な製本は
とても採算の取れるものではなく、
それを請け負ってくれる出版社が見つからなかったのだそうだ。
そこで、その特殊で複雑な製本を請け負ったのが日本の出版社。
確かに、いかにも日本人が得意で好きそうな仕事である(笑)。

更にエリック・カールは、日本を訪れた際に
絵本の美術館を観たことに触発されて
アメリカで初めての絵本の美術館である「エリック・カール絵本美術館」を
マサチューセッツに創設したのだそうだ。


展示の最後にあるのは、エリック・カールの最新作。
といっても絵本の原画ではなく、敬愛するパウル・クレーに対するオマージュ作品。
パウル・クレーには天使を描いた作品がいくつかあるのだけど
どれも一見「え?コレって天使?(^^;」という
およそ一般人が思い描く天使像とはかけ離れた様相の天使たちなのだけど
そのイメージをエリック・カールが立体作品として制作した
3つの『天使』が展示されている。
段ボールやアルミ箔のような、そこらにある素材を組み合わせた
コラージュの不可思議な天使はまさしくパウル・クレーの天使そのもの。
あー!そうそう!、パウル・クレーってこういうイメージだよね〜と頷ける。

こういった抽象的な作品を観ながら
時代が時代なら…もエリック・カールがもう少し早く生まれていたら、
絵本作家ではなくて、表現主義やシュールレアリスムの
画家になっていたかも知れないなぁ…なんて妄想を膨らませた。



このように、エリック・カールの(絵本だけではない)作品と人となりを
いろんな角度から知ることの出来る、とても興味深い展覧会だった。
エリック・カールの絵本が大好きな子供のみならず
エリック・カール好きの大人も楽しめる。
世田谷美術館がもう少し近かったら、もう一度行きたいくらいだ。


自分土産はポストカード。
(しまった。一番上の左側のカード↓が逆さまじゃないか…_| ̄|◯)。
07_cards.jpg
気のせいかも知れないけど、図録よりもポストカードの方が
作品の色味をより忠実に再現できてるような気がする。
印刷される用紙の紙質や光沢にもよるのかな…。

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ポチヒコ

私は慣れ親しんだ Island Galleryの元店長の安斉紗織さんが
昨日までやっていた「彩色写真画」を鑑賞。
今回で4回目でしたけど回を追うごとに進化してますね。
細部の細かさは現物を見ないとわからないですね。
今回も非常にインスピレーションが働いて第一印象で決めました。
結果的には後悔もなく我が家に来るべくして来た作品と。
巡り合わせって絶対にありますよね?
普段は財布の紐かっちりになるのにゆるかったもんなぁ。
不思議です。


by ポチヒコ (2017-06-12 21:40) 

梅屋千年堂

>ポチヒコさん
安斉さんの個展に行ってらしたのですねー。
安斉さんの作品って…一点モノなのですよね?。
1枚1枚手彩色って、凄いと思います。

アタシは次期開催のジョバンニさんの写真展に興味があるのですが…
作家来廊日が意外に多い…。
  ↑逆に行きづらさを感じてしまう人見知りで小心者の梅屋でございます…(^^;。

by 梅屋千年堂 (2017-06-12 22:50) 

ポチヒコ

梅屋さんにもこの画風って今までにはない感じかな?

カラーで撮影した物をわざわざモノクロにして彩色って。
物凄く繊細で一度生で見てみると画像では表現できない
素晴らしさがあります。
細部が特に良いです。
そこが「彩色写真画」のいい所なのかもしれませんね。

梅屋さん的には不得手かもしれませんが作家さんに
解説をいただくのは作品をさらに味わうツールにって
思うとさらっといけますよ。(^o^)!

今回の「さくら」を題材にしたものも非常に良かったです。


by ポチヒコ (2017-06-13 22:00) 

梅屋千年堂

>ポチヒコさん
>>作家さんに解説をいただくのは作品をさらに味わうツール
ですよね。こんなにお得なことないですよね。
わかっちゃいるんですけどね、
作家さんの「よかったら買ってって」オーラに耐えられる自信が
アタシにはありません…
てのは冗談ですが、あの狭い空間の中で作家さんを前にして、
リラックスした精神状態でなおかつ集中して
作品をじっくり鑑賞できる自信がありません(^^;。
もう作家さんとの会話がまったく弾まずに、
困り果てる自分の姿がありありと目に浮かんでしまいます(爆)。

by 梅屋千年堂 (2017-06-13 22:34) 

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